密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものと考えており、このブログを立ち上げました。日々読んできた本の備忘録を兼ねた書評と内容の概要紹介及び読書感想をまとめたブックレビューのブログです。過去に別名でAmazonのレビュー欄に掲載したものとそちらには未掲載のものがあり、後者は「Amazonレビュー欄未掲載」タグをつけてあります。

実は危機に瀕している、おっぱいの知られざる真実。『おっぱいの科学』

著:フローレンス ウィリアムズ、訳:梶山 あゆみ

 

 おっぱいは、危機に瀕している。母乳には化学物質が濃縮され、乳がんはアメリカ人女性の死亡率第1位で、初潮年齢が早まったのに出産年齢は逆に高齢化したことが年齢に応じたホルモンのバランスを崩し、一時より進歩したとはいえ豊胸手術はトラブルがあとを絶たない。

 大きな胸は、相変わらず男性から好奇の視線を集めるが、現代のおっぱいをとりまく状況はなかなか厳しい。ちなみに、著者は女性ジャーナリスト。日本語訳を手掛けているのも女性である。

 

「人類がもつ特徴としてこれほど絶大な人気を誇り、現代でもなおビキニで包まれたり、むき出しにされたり、見せびらかされたり、計られたり、ふくらまされたり、メールで写真を送られたり、ユーチューブに動画を投稿されたり、吸われたり、ピアスで刺されたり、入れ墨をされたり、房(タッセル)つきのスパンコールを貼られたりと、ありとあらゆるやり方で熱烈に崇拝されていながら、実は器官としての乳房の基本的な仕組みを私たちはほとんど知らない。これは驚くべきことである」。


 乳房には夢想や妄想が集まりがちで、科学者ですらその魔力から逃れることは難しい。男性に見られることをで乳房が進化したと考える学者は昔からたくさんいるが、実はその説ではつじつまが合わないことが多い。

 乳房が動いて乳首が突き出していることで授乳はやりやすくなるし、乳輪が黒くなることで視力が発達していない新生児でもその位置を見つけやすくなる。一方、赤ん坊がうまく乳を飲めるように人間の口蓋と舌の筋肉は発達し、それが言葉を話すお膳立てとなった、という説もある。

 シリコンをパックにつめた豊胸手術を史上初めて受けた女性への取材は興味深い。今は高齢となっているこの人は、実は自分の乳房に不満はなくて、耳の形を整形してもらいたかったそうで、そちらも治すからという条件で引き受けたという。

 シリコンや豊胸バッグはその後多くの胸に注入されトラブルをおこしていて、この記念すべき開拓者といえる女性のバッグも既に体内で破裂しているそうだが、「転んでおっぱいから落ちて、怪我をしなかったことがあるの」とも語っている。

 本書では、現代社会にあふれている化学物質とおっぱいとの関係について、多くのページを割いて吟味している。DDTや水銀といった毒性の強いものだけでなく、殺虫剤、難燃剤、除草剤、染料、防カビ材、化粧品の添加物、消毒剤、脱臭剤、芳香剤といったものが、女性の体の中に蓄積され、ホルモンの分泌に影響を与える内分泌かく乱物質となってゆく。

 初潮年齢が早くなっていることや乳がんの何割かは化学物質の広がりと関係があるかもしれないことが指摘されている。また、ピルについてもホルモンの分泌のバランスを崩すことでがんの遠因になっている可能性があるようだ。

 栄養だけでなく、あかちゃんの免疫を高めたり腸内細菌のバランスをよくすることができる母乳についても、化学物質が濃縮されて混じりやすいという問題が生じている。 

 若くして妊娠するとがんになりにくいとか、修道院では乳がんにかかる女性が多いというようなことにも触れられている。ホルモンについては、エストロゲン、プロゲステロン、HCGホルモンについて特に注意が払われている。

 授乳の大変さ、粉ミルクが発明されるまで母乳が与えにくい場合はどうしていたか、女性に比べて発症率は100分の1程度だが男性の乳がん、自分でさわって乳がんを調べる器具を買って試してみた体験記、おっぱいの容積を求める方程式なるものまで紹介されている。おっぱいは偉大である。

 

単行本、328ページ、東洋書林、2013/08

 

おっぱいの科学

おっぱいの科学

  • 作者: フローレンスウィリアムズ,Florence Williams,梶山あゆみ
  • 出版社/メーカー: 東洋書林
  • 発売日: 2013/08
  • メディア: 単行本