密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

日本企業では欧米型のコンサルティングビジネスはうまく機能しない。『コンサルは会社の害毒である』

著:中村 和己

 

 あまりにズケズケと書きすぎではないかと思えるくらい、ストレートな表現に満ちた本である。読者の多くは、読んでいる間に一度はなんらかの不快感を覚えるのではないだろうか。特に、実名で名前が挙がっている企業の関係者はそうだろう。日本企業では欧米型のコンサルはうまく機能しないし、企業をとりまく世の中や産業全体を俯瞰するための調査・分析をする筆記用具として使えばよい、と主張している本である。

 読んでいてあまり気持ちのいい本ではないのだが、そうなってしまっているのは、著者としては、本当のことを正しくストレートに伝えようと本気で考えているからだ、というのはある。実際、そういう本だと思って割り切るなら、それなりに面白いし、なるほどと思うところはたくさんある。

 そもそも、アメリカの株式会社とは、株主のために利益を生み出す団体であり、経営者はROA/ROE/ROSを最大化するために戦略を練り、そのためには情け容赦なく人員削減を行う。意思決定はトップダウンである。短期間で人が入れ替わるから戦略もだいたい3年くらいのスパンで切り替わることが多い。また、裸一貫で創業したような人を除いて、大企業の経営者の多くは「回転ドア」と称されるエリート人材のループの中で循環しており、コンサル出身の経営者も珍しくない。このような社会では、コンサルタントは経営者のトップダウンの戦略決定を支えるブレーンとして一定の役割を果たすことができる。経営者の報酬は高額だから、それを支えるコンサルの費用が高くてもそれほど目立つことはない。手法も多くの企業に通じる一般性を持ったものになりやすい。

 しかし、日本企業はそうではない。利益重視と表面で言っても、実態は雇用維持が最優先の共同体である。現場の権限が強く、意思決定の多くは現場から熱意とともに上げられたものが合議制のプロセスの中でコンセンサスとして固められていき、経営会議にかけられて意思決定がなされる。経営者の多くもそのようなプロセスから内部昇格で決められている。こういう共同体組織では「戦略」とは、欧米企業とは違った意味合いを持ち、ROA/ROE/ROSを追及してリストラも厭わないというようなものではなく、現場に活力を与えて雇用を維持して停滞を打破するものであることが期待される。また、個別の企業や集団の事情により複雑に個別最適化されてきたので、一般解が通じにくい。

 このように欧米企業とは大きく異なる「従業員たちの共同社会」的な体質を持つ日本企業に対して、欧米流のコンサル手法を持ち込んでもうまくいかないし、実際、経営コンサル市場の規模はGDP比でアメリカの10分の1でドイツの8分の1という大きさしかないという。経営コンサルを入れても、報酬が高いのに大した結果を出さないとすぐ批判されたり、現場の抵抗に遭うというようなことは日常茶飯事であるらしい。IT産業におけるコンサルの役割やシステム開発におけるSIへの丸投げ体質や非効率性も、そもそもはユーザ側である日本企業の特殊体質によることが多いという。

 著者は自身の経験から、欧米流のコンサル手法と多くの日本企業に通じる体質とのミスマッチについて赤裸々に語っている。実際、そもそも経営コンサルの分析手法には多くの問題があるし、役に立たないことは多いし、そもそも自動車産業を経験したことがない人が自動車会社のコンサルをしたりするのは、素人が野球のコーチをするようなものでそもそもおかしいとする。

 ただし、著者はなんでも自前でやろうとする日本の大企業側にも警鐘を鳴らす。現場からボトムアップで上がるものはどうしても視野が狭くなりがちで、既存製品をベースにした小さな差別化などに熱心に走りがちな傾向になる。現場は直接マーケットで感じるものについては敏感だが、産業全体の構造の異変やその背景にある世界的なトレンドや政治的なことも絡めた潮流の変化に対して気づくのが遅い傾向にあるので、その結果が市場に反映して気づいた時には手遅れになってしまうことがある。

 従業員共同体の意識を優先する日々を送る中で、外部環境の変化の兆候に対してゆでがえるの状態になってしまう。日本の電機産業が、技術は優れているのに、韓国や台湾の企業に追い越され、大した技術も特許も持っていないアメリカのアップルの大躍進を許したのは、まさにその典型であるという。

 著者は、日本企業の体質はバブル崩壊後も変わってこなかったし、今後も容易に変わることはないだろうとしている。したがって、共同体経営の日本企業には、欧米流の経営コンサルは必要ない、と断言している。ただし、大きなトレンドを調査したり分析するという用途では外部の人材を適時うまく使った方がよい、としている。

 

新書、244ページ、KADOKAWA/角川書店、2015/11/10

 

コンサルは会社の害毒である (角川新書)

コンサルは会社の害毒である (角川新書)

  • 作者: 中村和己
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
  • 発売日: 2015/11/10
  • メディア: 新書