密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

コインチェック事件、北朝鮮との関係の噂、お粗末な取引所のシステム。仮想通貨の問題点を中心に書かれた、『実録! ビットコイン&仮想通貨の深い闇 』

(著:伊藤 博敏、猫組長、三上 洋、水谷 竹秀、他)

 

 仮想通貨の問題点を、実際の事件や体験談及び取材に基づいて書いた本。複数のジャーナリストやライターが役割を分担して書いている。技術的に詳しい本ではなく、近年の仮想通貨に関するニュースが頭に入っている、あるいは実際に取引してみたことがある人であれば、特に問題なく理解できるレベルである。

 

 コインチェック事件の580億円相当のNEM流出は、仮想通貨の取引所や販売所がセキュリティを後回しにしてきたことを白日の下にさらした。ホットウォレットでの管理。マルチシグ未導入。

 しかし、創業して間もないこの小さな会社が、総額460億円を自己資金で補填したことも世間を驚かせた。巨利を得られるおいしい商売なのである。

 仮想通貨には、「取引所」と「販売所」がある。取引所は売買手数料を取る商売だが実際は無料であることも多い。一方、販売所は販売価格に手数料を載せておりこれが最低でも1%以上で利ザヤが大きい。価格変動が激しく出来高が大きいほど利益が出る。

 

 仮想通貨の市場は保有額が偏っており、相場操縦がしやすい。流通量の大きなビットコインでさえ、わずか0.69%のアドレスが全体の87%を所有している。「草コイン」と呼ばれるマイナーなアルトコインは仕手筋に踊らされやすい。ビットコインキャッシュの分裂をもたらしたように、マイニング業者の影響力も大きい。

 

 仮想通貨はマネーロンダリングに向いている。ヤクザにとって仮想通貨は福音だったという。コインチェック事件は盗まれたNEMにタグがつけられたが、結局、Torブラウザなどを使ってアクセスできるダークウェッブと呼ぶ闇市場で取引され、全量が売却されてしまった。仮想通貨のハッキングによる被害は世界中で発生しており、北朝鮮の関与も噂される。ICO資金の10%が盗まれているという。

 

 ICOは詐欺あるいは詐欺まがいの行為が横行している。中国や韓国ではICO自体が禁止となっている。アメリカ証券取引委員会は詐欺の可能性のあるICOの摘発を進めている。日本の金融庁もICOによる詐欺被害への注意喚起を行っている。

 本書では、「GACKTコイン」の運営代表者への直撃インタビューが掲載されている。また、実際はそのような関係は一切無いにもかかわらず、フィリピン政府やフィリピンの大手企業公認であるかのようなアナウンスをして資金集めをして問題となった「ノアプロジェクト」の「ノアコイン」についても、実際に華原朋美らを起用したイベントに実際に潜入してみたレポートが載っている。

 

 「MUFGコイン」「Jコイン」。銀行界は限定的でも独自コインの発行によって新たな収益基盤をつくることを模索している。電通は子会社のISIDなど通じて金融のイノベーション分野での収益拡大のチャンスを狙っている。

 

 2018年3月のG20は仮想通貨を「暗号資産」と位置付けた。通貨の機能は持っていないあるいは不十分であるという判断からである。実際、決済手段として利用するには投機性が高すぎる。裏付けもない。取引所を許可制とし、条件を満たしてない業者でもみなし業者として営業を許してきた金融庁は、コインチェック事件を機に規制を強めるが、金融のイノベーションを後押ししたい思惑もある。

 

 コインチェックほどの規模ではないが、他の仮想通貨取引所でも不祥事は連発されている。国内第3位のZaifは、不正出金事件だけでなく、Zaifだけで大幅な価格変動が生じて顧客資産のロスカットが発生。極め付きは一人でビットコインで20億BTC(日本円で2200兆円)の売買ができたというもの。ちなみに、ビットコイン全体の発行上限は2100万BTCである。

 

 そもそも、仮想通貨は本当に経済にとって必要なのだろうか?日本円の信用力は仮想通貨や独自通貨とは比較にならないほど高い。ドルは基軸通貨であり、石油も穀物も国際市場ではドル以外の売買はまずできない。

 仮想通貨はマネーロンダリングの温床であり、価格変動が大きすぎて決済には使えず、スキがあれば大量にハッキングされて盗まれ、万一秘密鍵を失えば本人でもアクセスできなくなる。裏付けになる資産もない。非中央集権的で分散台帳としてのユニークな仕組みには大きな魅力はあるものの、マイナス面もあまりに大きい。

 この本は、特別なことはあまり書かれていないし、闇というほどの内容でもない気がするが、バブルを経ていろいろな問題も浮かび上がってきた現在、仮想通貨の意味をネガティブな面から考え直すいい機会にはなる。

 

単行本、237ページ、宝島社、2018/4/27

 

実録! ビットコイン&仮想通貨の深い闇

実録! ビットコイン&仮想通貨の深い闇

  • 作者: 伊藤博敏,猫組長,三上洋,水谷竹秀ほか
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2018/04/27
  • メディア: 単行本