密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

地震、噴火、土砂崩れ、津波。災害に見舞われ続けてきた日本。「天災から日本史を読みなおす - 先人に学ぶ防災 」

著:磯田 道史

 

「300年前のこの古文書は我々に物語る。老人・子どもは災害時の低体温症にとくに弱いこと。年長者は責任ある言動をしなければならないこと。疲労困憊時には弱気になり判断が鈍ること。我々はこれらを自覚して、老いも若かきも、最後まで避難を投げないことが大切だ」。


 地震津波、噴火、土砂崩れ、高潮、台風。日本は有史以来多くの災害に見舞われてきた。その被害の記録や教訓を後世に残そうと多くの人たちが筆をとったものが各地に残されている。本書はそのような古文書に書かれた災害の記録をたどってまとめたものである。著者は「武士の家計簿」で有名になった歴史学者

 天正地震が発生しなければ、徳川家康豊臣秀吉の猛攻撃を受けていた筈だった、というのは知らなかった。大阪に来る津波は歴史上高さにかなりばらつきがあるようだが、650年前のものは6メートルくらいあった可能性がある。

 南海地震の規則性や、南海トラフ・相模トラフ大地震が富士山の噴火と関連が深いことは多くの記録からその事実がわかる。昔の人たちの筆まめさに、われわれは感謝しなくてはならない。

 富士山噴火にはいくつも前触れがあったこともうかがえる。火山灰で目を傷めた人も多かったらしく、著者は「火山灰はガラス質。富士山が噴火したら、東京では目を守るゴグールが飛ぶように売れることを予言しておく」と断言している。

 著者は、同じ災害に遭っても、逃げ方は家族の性格や生い立ちや価値観の違いで千差万別で、その逃げ方によって生死が分かれている例が多くあることに注目している。あらかじめ、家族でいざという場合のことを話し合っておき避難場所も決めておく、何も持たないで逃げる、ましてや一度避難しはじめたら絶対にお金や物を取りに戻らない、赤ん坊のいる家庭は抱っこ紐を枕元に置いておき逃げるときは落ちたり流されないように親の体にくくりつける、津波のときにはなるべく川や橋に近づかない、第一波が済んだからとすぐに戻らない。地震でため池が決壊してその下手の多数の民家で被害が出ることもある。

 地震や噴火などの災害の歴史はけして終わったことではなく、いつ同じような天災に襲われても不思議ではない現代日本に生きるわれわれにつながっている。先人たちが残した貴重な経験や教訓から学ぶべきことは多くあると思った。

 

新書、221ページ、中央公論新社、2014/11/21

 

天災から日本史を読みなおす - 先人に学ぶ防災 (中公新書)

天災から日本史を読みなおす - 先人に学ぶ防災 (中公新書)