密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

本当に広大だった大日本帝国の勢力圏。終戦の日を境にそれが消滅。激動の歴史。『「大日本帝国」崩壊―東アジアの1945年』

著:加藤 聖文

 

広大な大日本帝国の勢力圏がポツダム宣言受諾後にどのような道を歩んだのか、その激動の様子まとめた本である。

朝鮮:直後から複数の政治団体が乱立。朝鮮総統府は現地の元政治犯に丸投げしようとしたが、アメリカの統治開始で李承晩が南朝鮮の指導者に据えられる。北部はソ連が進攻し、米ソの調整で朝鮮半島を38度線で分断。ソ連の後押しを受けて北朝鮮では金日成が台頭。

台湾:平穏に過ぎた期間を置いて国民党軍が進出。インフレがもたらされ、二・二八事件が発生。

満州:戦力が激減した関東軍ソ連の大軍。シベリア抑留や居留民の置き去りなど、多くの悲劇が生まれる。

南洋諸島:島ごとに降伏。3つの国と北マリアナ諸島連邦(米国領)になる。

南樺太及び千島列島:日本の降伏後も、ソ連が攻撃を続ける。民間人含め多くの犠牲者が出る。

東南アジア:各国で独立運動が発生。

本書を読んで印象に残ったことのひとつは、3年半戦ったアメリカに比べて、日本が弱りきった時期を狙ってごく短期間だけ参戦したソ連が巧妙に多くの果実を得た点である。大日本帝国は、長年にわたってソ連こそもっとも重要な仮想敵国とみなしていたにも関わらず、その相手に対して日本は一番やられやすい弱っている時に、無防備かつお人好しだった。もっとも、当時の日本が置かれていた状況を考えると、どこまで有効な対策を打てたかどうかについては疑問ではあるが。

ポツダム宣言受諾に至った経緯についても、最初に簡潔に書かれている。特に目新しい内容ではなかったが、非常にうまくまとめられている。

1945年8月15日以降に日本の元勢力圏で発生した混乱について詳しく知らない人は多いに違いないし、このようにまとまった著作も少ない。しかし、この時期に何があったかを理解することは、現在のアジア情勢の理解にもつながる。日本人としてはつらい歴史だが、忘れてはならない悲劇も多く含まれている。多くの方に一読をお勧めしたい。

 

新書、266ページ、中央公論新社、2009/7/1

「大日本帝国」崩壊―東アジアの1945年 (中公新書)

「大日本帝国」崩壊―東アジアの1945年 (中公新書)

  • 作者: 加藤聖文
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2009/07/01
  • メディア: 新書
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