密林の図書室

日々読んでいる本の備忘録を兼ねた書評と内容の概要紹介及び読書感想をまとめたブックレビューのブログです。人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものと考え、このブログを立ち上げました。過去に別名でAmazonのレビュー欄に掲載したものとそちらには未掲載のものがあり、後者は「Amazonレビュー欄未掲載」タグをつけてあります。

カズオ・イシグロの名作。「わたしを離さないで 」

著:カズオ・イシグロ

「おれはな、よく川の中の二人を考える。どこかにある川で、すごく流れが速いんだ。で、その中に二人がいる。互いに相手にしがみついている。必死でしがみついてるんだけど、結局、流れが強すぎて、かなわん。最後は手を離して、別々に流される。おれたちって、それと同じだろう?」。

 
キャシー、トミー、ルース。へールシャム出身の若者たち。

淡々と落ち着いた語り口で物語りは進む。

平静でいられるはずがないし、

あてにならない希望にすがるときもある。

でも、結局彼らはそれぞれのやり方でその感情を処理し、成長し、運命を受け入れてゆく。


現実にはありえない設定の話だ。

日本と違い、Amazonの米国サイトのレビューでは否定的な意見も結構多い。

 

しかし、この作品は、強引に読者をこの世界へ引きこもうとはしない。

本人たち以外にはそれほど意味の無いようなちょっとした出来事の重さや、秘密や、わずかな心の乱れを、慎重に描き出す。

穏やかでとても繊細な文体だ。美しさすら感じる。

 

こみあげてくる感動が心をとらえて離さない。

本の扉を閉じながら、言葉にするのが難しい静かな感動に包まれた。

 

文庫、450ページ、早川書房、2008/8/22

 

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)

  • 作者: カズオ・イシグロ,土屋政雄
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2008/08/22
  • メディア: 文庫
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