著:高橋 龍太郎
日本の現代美術の魅力について語った本。著者は精神科医で、バブル崩壊後の日本であまりアートの買い手が盛り上がらなかった時期に現代アートに魅せられてコツコツ買い集めてきたというコレクター。
美術品のマーケットやコレクターについても簡単に書かれている。最初の16ページはカラー印刷で、いくつかの作品の写真が掲載されている。
1990年代以降の日本の現代アートは、マンガ、アニメ、ゲーム、コスプレといったサブカルチャーとの関連性が高く、日本の洋画壇では顧みられなかったが、世界からは新しい感性として支持されてゆく。
この時期はロイ・リキテンスタインやジェフ・クーンズといったアメリカンPOPアートのスターが脚光を浴びた時期でもある。そんな日本の現代アートの特徴として、著者は、伝統的な日本の芸術と共通する職人的な技巧の高さ、を挙げている。
次のアーティストたちの名前を挙げ、それぞれの作品の特徴について熱く語っている。草間彌生、森山大道、合田佐和子、宮永愛子、合田誠、西尾康之、鴻池朋子、小谷元彦、近藤亜樹、松井えり菜、荒木経惟、山口晃、名和晃平、村上隆、加藤泉、奈良美智。
アートを美術館で見ることと、実際に所有する行為は大きく違うものだと述べているところもある。お金もかかるし、置き場所の問題もあるし、その作品と生で向き合うことになる。美人を見かけるのと、実際に声をかけて付き合うことが違うように、その作品とつきあってみてわかることもたくさんあるのだという。
コレクションを集めるときのアドバイスも書かれている。古美術は偽物が多く、値段が高くとも格式が高いところで買った方が比較的安全。ただし、日本の古美術はバブルがはじけてから低値で放置されているものが多く、100万円も出せば各時代の良品が手に入るし、数百万円出せばかなりのものが手に入る。
日本画は家元的な制度の中でプライスがつく。日本の洋画はレオナール・フジタ以外に世界的な人がいないために外国人に人気がなく、国内マーケットのバブルがはじけてから低値で放置されている。
日本の現代アートは水準が高いが、それでもクオリティに比べれば低値である。ただ、将来まで人気が続くかどうかは保証されていない。そもそも、好きな作品を買うべきであって、投資目的としてはあまり考えない方がいい。著者が信頼を寄せているギャラリーの一覧もある。
「たしかに、アートなんかなくても死にはしない。けれど、新しい美への欲求は、人類の進化の根源にある衝動である。新しい美がつくられていくことで、世界は新しい世界へと踏み出していった」。
今や世界の多くの国が現代美術の育成や保護に力を入れている。一方で、日本は立派な美術館を各地にたくさん作ったが作品購入費は抑えられ、あとが続いていないことを嘆いているところもある。新国立美術館は、作品を有しているわけではなく本来は美術館ではなく展示のためのアートセンターであるという。
ただし、アジアではいち早く近代化を成し遂げた日本には、かつてのコレクターたちが集めた作品が多く保有されている。中国の古美術も日本には銘品が多く、目利きの古物商たちもいるという。
現代美術に財産を投じて続けてきたアートのオタクが半分趣味で書いたような感じがする本で、面白く読めた。
新書、192ページ、講談社、2016/10/19