密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

銀行のカードローン問題について。「強欲の銀行カードローン 」

著:藤田 知也

 

銀行カードローンについての本。著者は朝日新聞の記者。2016年の自己破産増加と銀行のカードローンのCM増加などを背景にNHKをはじめいくつかのマスコミの記者が銀行カードローンに注目して取材を始め、その後いろいろな記事や番組が取り上げるようになったが、著者も銀行カードローンの問題を取り上げた記者の一人である。

著者の取材の経緯を紹介しながら書かれており、弁護士、銀行カードローンで自己破産に追い込まれた人々、各銀行へのアンケート、全銀協トップへの質問といった取材の経緯を紹介しながら解説されている。巻末には、元金融庁の大森泰人氏のインタビューがある。例えば、全銀協会長への直接の質問など、大新聞の経済記者だからこそできることもあり、少なくとも、取材記として読むならば、興味深い話がいろいろあり、悪くない本である。

ただ、気になった点も2つほどある。まず第一に、「あれは広報部が悪いのか、そういう体質の組織なのか、今後もマークするようにしたい」「数日前に『メシを食おう』などと誘ってきたくせに。この電話をもってやめることにした」などと、自分が取材で不愉快な目にあったことを、腹立ちまぎれに書いているように読める箇所が散見されることだ。

第二に、最初から最後まで、年収の3分の1規制の導入についての著者の主張へのこだわりが特に目につく内容になっていて、それによって、ともするとそれ以外のポイントの説明が相対的に若干薄く感じてしまうことである。例えば、最後の5つの提言はとてもよいことが書かれてあるのだが、その5つの提言と本文との関係性で見ると、3分1規制以外の提言につながるそれまでの本文の記述は、3分の1規制の主張に比較して質量ともに必ずしも十分な内容になっているとは言い難いように思われる。全体的にも、取材記としての部分と3分1の規制へのこだわり以外の部分はそれほど詳しいとは思えず、個人的には、いささか物足りなさを感じた。

 

新書、256ページ、KADOKAWA、2017/9/8