著:淵田 美津雄
真珠湾攻撃の飛行隊で隊長を務めた淵田美津雄の遺稿を元に一冊にまとめてある。意外に内気だった少年時代の様子から、戦前、戦中、終戦後、そしてキリスト教に改宗してアメリカに滞在した頃のエピソードに至るまで詳しく書かれてある。
一番読みごたえがあるのは、やはり真珠湾攻撃の部分だろう。昨日のことのようにはっきり思い出せるというだけあって、非常にリアルだ。
盟友の源田実の強い希望で40歳を過ぎているというのに飛行隊の隊長を引き受け、攻撃隊の先頭を飛んで誘導し、一次攻撃隊のみならず二次攻撃隊への指示もした上に残存機の捜索まで行って燃料がなくなるギリギリに帰還したという、大車輪の活躍ぶりには改めて目を見張るものがある。
盲腸の手術を終えたばかりのミッドウェー海戦での様子にも触れている。また、参謀時代には捷一号作戦を提起したことを述べている。
真珠湾攻撃で第二派攻撃を行わなかった南雲忠一中将への批判や、連合艦隊山本五十六大将を凡将とする厳しい意見も見られる。対照的に、山口多聞少将への評価は高く、連合艦隊司令長官になる日を待っていたのに、とその死を惜しんでいる。
真珠湾攻撃の中心的な人物として、戦後は東京裁判に呼ばれたり多くの連合軍の大物と会っている。東京裁判ではパル判事のコメントも引き合いに出しながら、その茶番劇ぶりを皮肉っている。黒人兵士たちにこっそり飲みに連れ出され、白人をやっつけたことに留意が下がったと言われたエピソードもある。ニミッツ、トルーマンなどとの会見の様子も興味深く読めた。
キリスト教徒に回心し、アメリカへ行った記述などは、多くの日本人にとってはちょっと複雑な気持ちになるかもしれないが、だからといって淵田個人を責めても仕方がない。また、編者が回想録を保管していた子息にインタビューした内容を含んだ解説も入っている。いずれにせよ、貴重な記録である。
文庫、552ページ、講談社、2010/11/12