密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

信長と消えた家臣たち―失脚・粛清・謀反 (中公新書)

著:谷口 克広

 

「短気、気まぐれ、傲慢、残忍、他人に厳格すぎること、執念深いこと、猜疑心が強いこと...(中略)...信頼できる史料だけで信長の性格を観察してみても、そうした認識は間違いではない」。


 タイトル通り、信長の周辺に数多くの人々の屍が累々と積みあがっていく様子が粛々と描かれている本である。はっきり述べて、読んでいてそう楽しい内容ではない。しかし、だからこそ、「戦国時代」がリアルに感じられる一冊に仕上がっている。

 著者は既に信長に関する著書を書いており、多くの資料を調べ、それぞれの資料の信憑性についても大変よく考察している。一見淡々と書かれているようだが、本書は小説ではなく歴史書であり、安易に想像に頼ることは極力排除した上で慎重にデータを紐解いて論理的な考察を重ねている姿勢には好感が持てる。

 終始冷静に書かれてあるのだが、例えば「塙直政は有能な行政官ではあったけれど、大軍の統率者としては不向きだったかもしれない。だが、生命を失うほどの戦いを敢行した者に対して、信長の仕打ちはあまりに冷酷と言わねばならない」というような見解がところどころに見られ、そのような不運の中で消えた人物達に対して歴史家として少しでも正確で客観的な解釈を施すことで報いたいという想いが強くあるように感じられる。

 個人的には、松平信康切腹事件に関しての綿密な調査と名探偵のような推論で導かれた結論が見事で印象的だった。一方、本能寺の変に関しては、著者の推測だけではまだいろいろ謎が残るように思う。

 尚、本書はあくまで基本な史実については既に理解済みの読者を想定して書かれている著作である。よって、一般的によく知られている基本的な合戦や事件に関してのありきたりの説明はほとんど省略されている。また、地図や組織図もほとんどない。よって、基本的な史実についてまだ十分な知識を有していない方は、先に別な本を一読されてから購入された方がよいと思う。

 それにしても、おそるべし信長。仕えるにせよ、敵に回すにせよ、大変な相手である。

 

新書、270ページ、中央公論新社、2007/7/1

 

信長と消えた家臣たち―失脚・粛清・謀反 (中公新書)

信長と消えた家臣たち―失脚・粛清・謀反 (中公新書)

  • 作者: 谷口克広
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2007/07/01
  • メディア: 新書
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