密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

深愛 (しんあい)

著:水樹奈々

 

面白かった。ドラマでもこういう筋書きはなかなか難しいだろう。歌手&声優として活躍する水樹奈々の自伝。こんなにいろいろ苦労して努力と下積みを重ねて成功の道を歩んだのか、と思った。豊かな声量と歌唱力が魅力的な歌姫だが、それは一流の演歌歌手にするために5歳から中学卒業まで父親にスパルタ式で徹底して喉を鍛えられた賜物であることもこの本で知った。

とても素直な言葉で語っている。父親の厳しい指導。地元新居浜で歌で頭角を現したころ。学校でのいじめ。東京行きのプレッシャーがかかった中での「全国せとうちカラオケ選手権大会」での優勝。堀越学園芸能活動コース入学&即デビューと思ったら、皆勤賞(つまり仕事が無い)。学校指定の靴下を買うお金すらなんとかやりくりして捻出するというギリギリの貧乏生活が続き、勉強にいそしんで奨学金を手にする。さらに声優の学校にも通う。高校2年のときには所属事務所が潰れてしまう。セクハラの被害にも遭っている。

プレイステーション用ゲームのキャラクターのオーディションでつかんだ声優の仕事。しかし、監督から続くダメ出し。「今日はもう帰っていいよ」と言われたことも。アニメやゲームの盛況期にチャンスをつかみ、歌も歌い、ライブを見に来たキング・レコードのプロデューサーに才能を見込まれ、先生の下を離れて本格的に歌手デビュー。父親の死を乗り越え、オリコン1位、武道館やさいたまスーパーアリーナや東京ドームでLive。2009年には紅白歌合戦にも出場する。「あれだけ歌えて、あれだけ喉が成熟しているのに、80年代のアイドル以上に不可侵的な処女性があるんです。しかも、声優。新しい時代のアーティストになれます」という三嶋プロデューサーの予見は見事的中したといえる。

いろいろな困難に遭って、ちょっとくじけそうになって一時体重が7kgオーバーすることがあっても、実に前向きに夢に向かって努力を重ねてたくましく生きてきたことが伝わってくる。声優や歌の仕事について説明する平易な言葉にプロフェッショナリズムが宿っている。支えてくれた人々への感謝も忘れない。拍手を贈りたくなるようなシンデレラ・ストーリーである。

 

文庫、277ページ、幻冬舎、2014/1/16

 

深愛 (しんあい) (幻冬舎文庫)

深愛 (しんあい) (幻冬舎文庫)