密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものと考えており、このブログを立ち上げました。日々読んできた本の備忘録を兼ねた書評と内容の概要紹介及び読書感想をまとめたブックレビューのブログです。過去に別名でAmazonのレビュー欄に掲載したものとそちらには未掲載のものがあり、後者は「Amazonレビュー欄未掲載」タグをつけてあります。

なぜ蚊は人を襲うのか (岩波科学ライブラリー)

著:嘉糠 洋陸

 

 マラリアフィラリア症、デング熱日本脳炎西ナイル熱、ジカ熱。蚊にさされることはかゆくなるというだけでなく、人類に病気をもたらしてきた。蚊の研究は、この点において、単に生き物の生態を調べるという以上の意義を持つ。

 蚊は、双翅目に属する昆虫で、普通は4枚翅のところ後翅が後退して平均棍になっているグループに属する。血の吸い口である長い口吻は5つのパーツからなる花形器官である。大きくは、血管を探し当てるために小刻みに動かし皮膚に刺す「刺針部」と、鞘の役目をして包み込む「下唇」からできている。

 蚊は、二酸化炭素(無風で10m以内)、匂い(中距離)、熱(40cm以内)の3つのうち2つの標的マーカーが満たされれば獲物に近づける。二酸化炭素は小顎髭にあるこん棒状の感覚子の表面のGr1, Gr2, Gr3の受容体タンパク質によって検出され、0.01%の変化もわかる。匂いは触覚上の嗅覚子のOrというGタンパク質共投型受容体が関与して認識される。熱については対流熱を感じていると考えられ、イオンチャネル型受容体タンパク質であるTRPA1がセンサーになっていると考えられる。

 蚊にさされたときのかゆみは、アレルギー反応によってもたらされる。抗体ができていないときにはかゆみを感じない。また、アフリカなどあまりに頻繁に蚊に刺される地域でもかゆみを感じなくなるという。蚊は、体重と同じくらいの血を吸う。そして、吸い込んだあとは、体内からおしっこのように水分を少しずつ出して固形物に濃縮してゆく。そうして残った血液のタンパク質をアミノ酸に分解し、これを材料に黄卵タンパク質前躯体が作られ、卵細胞に蓄えられる。

 蚊は卵→幼虫→蛹→成虫と変態する。ハマダラカとイエカの成虫には越冬する種が多い。温帯のヤブ蚊の越冬卵は乾燥に強く、気候が暖かくなり水に卵が触れると孵化の条件が整う。寒いグリーンランドに生息する蚊もいるという。寒冷地では蚊の生育に適した夏の期間が短いので、短期間で大量発生する傾向がある。10万匹規模の蚊柱ができることもあり、1匹が吸う血液の量はわずかでもこのような巨大な集団に襲われた場合は子鹿が死ぬこともあるという。

 蚊も病気に対する免疫を持っているが、蚊をはじめとする節足動物は自然免疫系だけを持ち、獲得免疫系は持っていない。マラリア原虫が唾液腺に入り込むと、吸血嗜好性を高めるという研究結果もある。

 蚊には犬を好むとか、ヒトを好むといった嗜好性がある。ただ、これは標的の数や世代が変わってゆくことで変化する場合がある。人類の数が少ないときにはヒトは蚊にとってそれほど重要なターゲットではなかったが、人口が増え人口密度が高まるとヒトを狙う蚊が増える。加えて、農業にトラクターが使われてそれまで利用されていた牛馬が減ると、今まで牛馬を標的にしていた蚊がヒトを狙うように適用しはじめる。

 蚊を通じた動物からヒトへの病気の感染もそのような背景が関係しているようだ。ちなみに、O型の人が蚊に刺されやすいというのは一種の都市伝説のようなものかと思っていたら、いまだに科学的な論争が続いているそうだ。

 蚊についての科学的な読み物である。著者がアフリカに旅行したときに体験したようなことといったエッセイ的な内容も含まれている。なかなか興味深く読めた。

 

単行本、128ページ、岩波書店、2016/7/15

 

なぜ蚊は人を襲うのか (岩波科学ライブラリー)

なぜ蚊は人を襲うのか (岩波科学ライブラリー)

  • 作者: 嘉糠洋陸
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2016/07/15
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)