密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものと考えており、このブログを立ち上げました。日々読んできた本の備忘録を兼ねた書評と内容の概要紹介及び読書感想をまとめたブックレビューのブログです。過去に別名でAmazonのレビュー欄に掲載したものとそちらには未掲載のものがあり、後者は「Amazonレビュー欄未掲載」タグをつけてあります。

排泄物と文明: フンコロガシから有機農業、香水の発明、パンデミックまで

著:デイビッド ウォルトナー=テーブズ、訳:片岡 夏実

 

 著者の計算によると、2010年に全世界ですべてのウシ、ヒツジ、ヤギ、ニワトリが排出した畜糞の量は141億3645万トンになるという。これは353億4112万5000立法メートルに相当し、標準的なサッカー場(幅60m、長さ100m)であれば300万面分を2mの深さで覆うことができる量だという。ちなみに、1頭のゾウは1日に紙115枚分の糞を出すので、全世界の50万頭のゾウの排泄物からは1日5000万枚以上の紙が作れる筈だという。また、牛糞は木と同じ発熱量を持つので地方によっては燃料として重宝されている。

 面白いかどうか微妙なユーモアが散見されるが、ウXコについて大真面目に書かれた本だ。著者はカナダの大学の名誉教授で、「国境なき獣医師団(国境なき医師団ではない)」創設者であり会長だという。

 排泄物は自然界にとって重要な存在だ。動物の種類によって含有量は大きく変わるが、植物の成長に欠かせない窒素とリンを豊富に含む。多くの微生物が生息し、種の運搬手段になり、生態系の循環に重要な役割を果たしている。クラゲなどは消化されなかったものは口から出す。ウマのような後腸発酵動物は、小腸を通過してから盲腸のバクテリアと原虫で繊維質を分解してから自然にかえす。人間は排泄物を肥料として利用し、時に高値で売買してきた。「コピ・ルアック」というアジア産のジャコウネコの腸を通過した豆でいれたコーヒーは、かなり貴重でおいしいという。

 その一方で、排泄物はやっかいなものでもある。多くの生物は自分の存在を知られないようにするために糞を隠したり、埋めたり、食べたり、離れたところで出したりする。かつてのロンドンのようにコレラが蔓延する原因になり、大腸菌O157など多くの細菌が排泄物を経由して広がる。特に人糞は人と相性のよい菌の宝庫なので、獣糞より危険度が高い。この事実が明らかになってから、人は下水道の整備に努め、衛生環境を整えてきた。

 しかし、著者は衛生的な理由から糞を遠ざけるようにしてきたことの道理については理解しながらも、現在のこのような状況については疑問を呈している。著者の主張に従う限り、我々が本当の再生可能な循環社会を作ろうとするなら、どうやらウXコをそこから排除することはあまり賢明な選択ではなさそうだ。本当の意味で、エコロジカルで、環境と地球にやさしい資源循環構造を持った社会は、排泄物に対してもやさしい社会のように思えてくる本だ。

 

単行本、222ページ、築地書館、2014/5/17

 

排泄物と文明: フンコロガシから有機農業、香水の発明、パンデミックまで

排泄物と文明: フンコロガシから有機農業、香水の発明、パンデミックまで

  • 作者: デイビッドウォルトナー=テーブズ,David Waltner‐Toews,片岡夏実
  • 出版社/メーカー: 築地書館
  • 発売日: 2014/05/17
  • メディア: 単行本