密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

薄い本なのにオタク度満点。ダムに眠る廃道&廃線、ダムカレー、堤高、総貯水容量、湛水面積、堤頂長、堤体積別にそれぞれのトップ10。『ダム大百科』

監修:萩原 雅紀

 

 ダムの本。ムック本サイズ。114ページ中81ページまでがカラー印刷。写真が豊富にある。薄い本なのであっさり読めるだろうと思っていたが、ページをめくる度に徐々にオタク度が増してきて、予想より中身が濃い本だった。

 まずは、日本のダムのスペック別BEST 10。堤高、総貯水容量、湛水面積、堤頂長、堤体積別にそれぞれのトップ10を紹介している。次いで、ダムの基礎知識。ダムを管理する事業者の違い、ダムの役割(治水・利水・発電)、ダムの構造(重力式コンクリートダム・アーチ式コンクリートダム・アースダム・ロックフィルダムバットレスダム・コンバインダム・台形CSGダム)。さらに観光の目玉になることもある放流の設備。

 ダム管理と河川整備及び洪水調整では、利根川上流8ダム、鬼怒川水系ダム、3つの川が合流する淀川水系、福岡の水源を担う筑後川水系の管理がどのように行われているのか紹介。

 平成27年9月の関東・東北豪雨でどのような治水コントロールが行われたのかも鬼怒川上流4ダムのグラフから詳しく解説している。このときには鬼怒川水系下流で堤防の決壊が発生したが、実は川俣ダムが極限まで水を貯め込むなど4ダムの連携によって下流の被害を最小限に抑え込んだのだという。

 低水管理もダムの重要な役目で、渇水時に流域の農業用の水を守った例も載っている。

 ダムの建設工程は絵付きの解説。ダムは本体の建設をはじめるまでに20~30年を要する場合が多いという。これは、計画の立案、地質調査、住民説明、資材運搬用道路の建設、山や川の掘削と整備といった工程に時間を要するからである。ようやく着工してもさらにそこから稼働するまで5~10年。ダムの大きさにもよるが、全体の期間は30~50年にも及ぶという。

 ダムの放流イベント・見学ツアー、楽しみ方、写真の撮り方、どこでもDamMapsの紹介があり、さらに「ダムに行ったらダムカレー」というコーナーもある。

 なんと、全国で90種類のダムカレーが確認されていて、アーチ状で仕切ったご飯をダムに見立ててカレーを入れる、さらにはご飯に切れ込みを入れて放流をするという楽しみ方があるという。お皿を用意したらまずは地鎮祭をする、という写真は、どうみても冗談にしか見えないのだが、まじめに手順が書かれている。

 ダムカードについては、仕掛け人である国土交通省の担当者のインタビューがある。現地に来てくれた人に、手渡し、というのがポイントらしい。また、世界にはダムを図柄に取り入れている紙幣が結構多くあり、確認できるだけで57か国156枚に及んでいるという。

 個人的に強く興味を引かれたのは、「ダムに眠る廃道&廃線」。水没という状態は結構保存状態がよく保たれるそうで、普通の廃墟なら草木が生えて森林に埋没して朽ちてゆくケースでも、水没の場合はそうはならない。次第に土砂がたまってゆくくらい。渇水時にはかつて水没した道路やトンネルや駅や橋が姿を現すこともあり、その写真が結構生々しい。

 ダムと関連する珍しい橋や、ダムのおかげでできた道路や鉄路、天端の紹介もある。ダムの堤体を通過しており満水時には閉鎖されるトンネルもあるそうだ。

 中には立ち入り禁止になっているダムもある。無人のところが多く、危険な道を通って山奥にいかないとたどりつけない、途中の道路ががけ崩れで通れなくなっていたりしているというケースもあり、テロ対策や事故防止が理由となっている。

 さらに、ダムのスペシャリストのインタビュー、役目を終えたダム、改造されるダム、計画で消えた幻のダムも、興味深い。さらに、世界のダム、ダムの歴史、人物伝、決壊事故、イベント、関連書籍やDVDコーナーと続く。

 日本は地形が険しく渇水と洪水の危険がひんぱんにあり、自然の川の流れだけでは常に安定した水量を確保したり台風や大雨の時の治水を守ることはできないという。このため、河川はダムや水路で生かされているといってよいという。水力発電はCO2を出さない自然エネルギーでもある。多方面かつ立体的な角度からダムの魅力に触れられる本だった。

 

ムック、114ページ、実業之日本社、2017/2/1

 

ダム大百科 (ブルーガイド・グラフィック)

ダム大百科 (ブルーガイド・グラフィック)