密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

「日本統治下の朝鮮 - 統計と実証研究は何を語るか」について

著:木村 光彦

 

 大日本帝国の一部だった頃の朝鮮半島の経済について、朝鮮併合から日本の敗戦による統治の終了まで、さまざまなデータを駆使して説明した本。日本が去った後に、南北朝鮮がその遺産をどのように生かしたかについても書かれてある。

 

 韓国や北朝鮮だけでなく、日本国内においても、一方的な日本悪者論が幅を効かせてきたテーマであるが、著者はそのような感情的な決めつけから距離を置き、淡々と事実をまとめている。

 

 結論から述べると、日本は朝鮮半島に莫大な開発成果を残す。農業地帯である南と鉱物資源が豊富な北。電力・鉄道・港湾といったインフラや工業関連の投資は北に集中する。このような工業化の進展は欧米の他の植民地には無いものだった。その過程において統治側と被統治側の協力体制が築かれる。

 1911-1940年の間、鉱工業は高率で成長した。成長率は、実質付加価値ベースの年平均で、鉱業は約12%、工業は9%に達した。

 食料は増産され、異物混入が多く乾燥不足のコメは内地の品種と技術の導入によって品質が向上する。純小作農の増加数(60万戸)は、自作農・自小作農の減少数(20万戸)よりはるかに多い。個人消費は年平均で3%以上で増加し、これは人口増加率を上回っている。教育は向上し、ハングル教育が広く行われた。

 予算面では補充金と公債金が朝鮮財政には欠かせず、日本側の資金負担が継続した。治安は向上し、1919年以降増加した治安維持費はそのうち安定し、融和政策への転換を通じて反日運動をコントロールする。

 大日本帝国が総力戦体制に入ると、朝鮮半島も戦時経済に移行。財政は膨張し、食糧増産計画と農村労働の組織化が行われ、軍事工業化のための投資や鉱山開発が全土で推奨される。

 

 この本で個人的に興味深かったのは、「戦時期との連続・断絶」という視点で、日本の統治が残した遺産に対する南北朝鮮への影響に関する見方を示しているところである。日本の軍国主義による徹底した統制化は、イデオロギーの違い以外の実質体制としては共産主義と共通した部分が多く、日本の残した工業遺産や鉱業開発が北に多く残ったことも含め、北朝鮮の体制は日本の統治の形と遺産を継承して金一族による独占体制に推移したので実は連続性が高かった。一方、日本統治時代から非連続的な変化となった南の方は政治的に何度も迷走を繰り返すことになった。

 また、朝鮮統治から日本は何を得たのか、という章では、日本にとって経済的に朝鮮半島はそれほど重要なものではなかったことが示されている。むしろ、安いコメが内地に流入して米価が大きく下がったことは内地の農業経営に打撃を与えた。ただ、日本政府の負担も1930年代には大きく下がっていてあまり負担にはなっていない。日本の朝鮮併合は、経済的な利益というよりは、軍事的・政治的な動機によるものであったといえる。

 

 統計をベースにして事実を明らかにしようとするアプローチで、恣意的な韓国の歴史学者の主張や歴史教科書の過ちを指摘している部分もある。興味深く読めた。

 

新書、224ページ、中央公論新社、2018/4/18

 

日本統治下の朝鮮 - 統計と実証研究は何を語るか (中公新書 2482)

日本統治下の朝鮮 - 統計と実証研究は何を語るか (中公新書 2482)

  • 作者: 木村光彦
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2018/04/18
  • メディア: 新書