著:舩坂 弘
もう何年も前になるが、たまたま、靖国神社の就遊館で、ぺリリュー島の戦いについての特別展をやっていたのを見た。それからずっと心に引っかかっていたので、本書を探して読んだ。
日本軍は失敗から学ばない軍隊だといわれることがあるが、それは必ずしも正しくはない。短期間で玉砕したサイパンやグアムの戦訓を生かし、工夫を凝らして圧倒的な米軍に対峙した中川大佐率いるぺリリュー島守備隊の大奮戦の様子は、想像を絶する物凄さである。人間はここまで極限に追い込まれても、こんなにまで頑張れるものなのかと絶句する。
ぺリリュー島が見えるアンガウル島で戦った元軍人によるレポートである。力の入った表現が多いので戸惑う読者もいるかもしれないが、よく調査し整理した上で、戦史を丁寧に記述している。
ちなみに、本書に詳しい記載はないが、実はこの著者も、アンガウル島の戦いで活躍し、米軍に突入して頸部を撃たれて動けなくなったところで捕虜になったものの重症のまま収容所を抜け出して米軍弾薬庫を爆破した猛者として有名である。
ぺリリュー島守備隊の奮戦は、劣勢に陥った日本軍のその後の戦闘のモデルケースになった。特に、洞窟陣地を張り巡らした防護線による巧みな抵抗作戦は、近年映画で脚光を浴びている硫黄島の戦いなどでも生かされている。
また、ぺリリュー島の激戦は、早期に避難させたために民間人が巻き添えにならなかった戦いであり、特に本書に言及はないが、これがその後独立したパラオの日本に対する国民感情が他のアジア諸国と比べて比較的良好に保たれていることにつながっているということも書き添えておきたい。
圧倒的に強力な米軍相手に、空も海も包囲され、連日の猛爆撃や砲撃に耐え、戦車には肉弾攻撃で対抗し、食糧も水も欠乏し、さらに弾薬もつき果てる中で、根気強く、最後の最後まで文字通り命がけで戦い抜いた守備隊の勇気と能力の高さには、ただただ驚嘆するしかない。本当に、本当に、よく戦ったと思う。
「散る桜、残る桜も散る桜」
文庫、275ページ、光人社、2010/11/1