密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

オレンジの歴史 (「食」の図書館)

著:クラリッサ ハイマン、訳:大間知 知子

 

最近の研究によると、オレンジの原産地は、中国南西部の雲南省とその周辺のインド、ビルマ、中国南部らしい。オレンジの歴史について書かれた本。西洋の話が中心だが、起源のような古い話については東洋や柑橘類一般の話題が一部含まれる。

柑橘類は雑種ができやすく、数多くの雑種や突然変異を生み出す。その中には、自然なものもあれば人工的なものもある。台湾のホアン・アーシェンという人は170種類の異なる品種を開発した。場合によって自家受粉が可能で、有性生殖によらなくても実をつける。種子から子孫を増やせるが、親木の特徴をそのまま受け継いだものを育てようとすると接ぎ穂を台木に接ぐのが確実な方法のようだ。

古代ローマでもオレンジは栽培されていたが用途は、はっきりしない。ゲルマン人の侵入によって一旦消えたが、数百年後にアラブ人の柑橘類栽培の技術がもたらされた。さらに、食味に優れた中国産のオレンジがもたらされる。こうして、オレンジは王侯貴族に愛されるようになる。ルネサンス期には、メディチ家をはじめとした裕福な商家では柑橘類の樹木のコレクションが流行する。ヨーロッパの王侯貴族で温室作りが行われ、ヴェルサイユ宮殿のオレンジ栽培温室は豪華さの頂点を極める。アメリカにはコロンブスが持ち込んでいる。17世紀のロンドンでは庶民でもたくさん食べる果物になっている。

アジアではマンダリンオレンジの人気が高いが、それ以外ではスイートオレンジが多く栽培されている。スイートオレンジの栽培量は世界規模ではバナナに次ぐという。スイートオレンジには、幅広い気候と土壌に適用できるバレンシアオレンジ、おへそのような特徴があることから名付けられたネーブルオレンジアントシアニン色素によって赤い果肉になるブラッドオレンジなどがある。

19世紀にカリフォルニアで増産が続き、消費拡大を目指して、万能薬として宣伝された。冷蔵技術と海上輸送の発達で南半球からの輸出も可能になり、今ではブラジルが世界最大の生産国となっている。濃縮果汁の技術でジュースによる消費が増えた。濃縮還元ではないものも実際はオレンジ由来のエキスなどで徹底的に調整されているものが多く、それを「自然な」ものとして売ることに対しては議論や訴訟も行われてきた。また、オレンジの栽培では安価な労働力が使われ、しばしば社会問題とみなされてきた。

オレンジは捨てるところがないといわれる。花や果皮や葉は、うっとりするような香りの精油になる。果皮は南太平洋などでは石鹸代わりに用いられていた。果皮は砂糖漬けでたべられた。近年では工業製品の材料としての研究が進んでいるようだ。オレンジは、詩、絵画、デザイン、祭り、信仰でもひんぱんに用いられてきた。レシピ集も載っている。

このシリーズはすべてそうだが、厳密な歴史や科学的な検証を行った本というよりも、教養レベルでカジュアルな食材に関する知識としてまとめられた読み物として仕上がっている。

 

単行本、184ページ、原書房、2016/7/26

 

オレンジの歴史 (「食」の図書館)

オレンジの歴史 (「食」の図書館)

  • 作者: クラリッサハイマン,Clarissa Hyman,大間知知子
  • 出版社/メーカー: 原書房
  • 発売日: 2016/07/26
  • メディア: 単行本