密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

デービッド・アトキンソン 新・観光立国論

著:デービッド アトキンソン

 

 近年、日本を訪れる外国人の数が増えている。しかし、諸外国に比べると日本は観光客の数がまだまだ少ない。イタリアやフランスやアメリカはもちろん、タイや香港と比べても半分以下。一人平均の観光収入も低い。

 しかも、増えているのは、中国、台湾、韓国などの周辺国からの観光客が中心で、欧米からの観光客は実はあまり増えておらず、大金を使う金持ちも少ない。裏を返すなら、日本の観光産業はもっと伸びる余地がある。なぜなら、日本は観光立国になるための「気候」「自然」「文化」「食事」の4つの条件を満たしている国だからだ、という。

 少子高齢化や製造業の国際競争の激化に直面している日本にとって、観光は今後有望な産業である。

 しかし、現在の日本の外国人の観光に対する政策や対応には勘違いが多く、日本人が思うようには外国人から評価されていない点が多々ある。その代表が、「おもてなし」。違う個性と価値観を持った外国人に対して、話を聞かずに自分の思い込みでサービスしているので、実際は単なる押しつけになっているケースが少なくない。しかも、杓子定規でたいしたことがない要求でもマニュアルに無いことは安易に拒絶する傾向がある。

 街並みや景観にも問題があり、例えば、マンションやコインパーキングや建売住宅が混在している京都の街並みは、海外のフィレンツエやベネチアのような古都のイメージを持って楽しみにやってくる外国人をがっかりさせている。また、ごみ箱が少なく、観光しながらごみを持ち歩かなければならないという不満もあるそうだ。

 「ゆるキャラ」も外国人からみると子供だましにしか見えない。文化財の外国語の説明やガイドや展示が不十分で、しかも手入れが行き届いていない施設が多いため、せっかく由緒のある施設であっても、みすぼらしく見えることもあるようだ。

 古都奈良は文化財の宝庫であるのに、多くの外国人観光客は京都から日帰りで訪れるだけなので、地元にはあまりお金が落ちていない。お金が落ちる観光は宿泊と食事が伴うが、数多くの誇るべき文化財がある奈良県は、47都道府県の中でホテルのベッド数が一番少ないという。

 エジプトのピラミッドも、カンボジアアンコールワットも、イギリスの大英美術館も、そのためだけに一日かけるような場所であり、奈良も本来はそのような魅力のある場所なのだから、1週間滞在して楽しむような場所にすればシャワーのように地元にお金が落ちると著者は述べている。

 昼の観光だけでなく、リゾートのような多様な楽しみができるようになっている場所をもっと増やせば、たくさんお金を使ってくれる上客を呼べる。そうして、外国人観光客を飽きさせることのないコースをいくつもつくって、「今回も日本を回り切れなかった、また来たい」と思わせることが必要だという。

 インバウンド需要をどのように生かすべきなのか、日本人の目線ではなかなか気づきにくいことが多く書かれている。しかも、きちんと数字やデータに基づいて書かれている。著者が掲げているような訪日客数の目標を実現しようと思ったらそもそも飛行場が今の日本では足りないように思われるが、とりあえずそのような点はさておき、気づきの多い本で、読んでよかった。

 

単行本、280ページ、東洋経済新報社、2015/6/5

 

デービッド・アトキンソン 新・観光立国論

デービッド・アトキンソン 新・観光立国論