密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

デザイン思考が世界を変える

著:ティム・ブラウン、翻訳:千葉 敏生

 

「デザイン思考では、誰もが持ってはいるものの従来の問題解決方法では軽視されてきた能力を利用する。デザイン思考は、人間中心であるというだけでなく、人間の本質そのものともいえる。直観で判断する能力。パターンを見分ける能力。機能性だけでなく感情的な価値をも持つアイディアを生み出す能力。それを重視するのはデザイン思考だ」。


デザイン思考についての本。単に「機能」を提供するのではなく、快適な「カスタマー・エクスペリエンス」を提供するという視点からサービスや商品を体系的にデザインしてイノベーションをおこすにはどうしたらいいのか、ということを述べている。著者は、デザインファームである「IDEO」のCEO。

IDEO」が扱った例を含めて、多くの実例が出てくるのが特徴のひとつになっている。日本や日本企業の例もいくつか登場する。クールビズ、パナソニッが支援した動力源として電池しか使わない世界初の有人飛行、任天堂Wiiシマノがアメリカでの自転車普及のためにおこなったこと、などである。

制約を受け入れて「経済的実現性」「有用性」「技術的実現性」のバランスの中で枠組みを考える。大きなチームを作るより小さなチームをたくさん作る。イノベーションの3つの空間(「着想」「発案」「実現」)。人に望みを尋ねるだけでは洞察は得られないので、「人間」を最優先にした洞察から内なるニーズを明らかにする。人々のしないことに目を向けて言わないことに耳を傾ける。観察対象の人たちと「共感」することでつながりあう。機能的な理解・認知的な理解・感情的な理解。チームと消費者との密接なコラボレーション。「洞察→観察→共感」

デザイン思考を体験することは、「収束的思考」「発散的思考」「分析」「総合」の4つの心理状態の間でダンスをすることに等しい。ブレーンストーミング。ビジュアルシンキング。プロトタイプは積極的に利用すべきだが、特に初期のプロトタイプはアイディアに実用的な価値があるかを把握することなので、簡素でラフで安上がりでなくてはならない。サービスについては「シナリオ」がプロトタイプの代わりになる。新サービスの開発に役立つシナリオのひとつが「カスタマー・ジャーニ」になる。複雑な社会的インタラクションに依存するサービスの開発においては、プロトタイプを野に放つことも必要になってくる。組織変革においてもプロトタイプを利用することができる。

「経験経済」の真の意味は単なる「娯楽」ではない。コモディティ→製品→サービス→経験」という価値のピラミッドは、経験が機能的なものから感情的なものへ変化を遂げることを意味する。大量生産時代の消費者は受動的なものだったが、デジタル時代の消費は人々の理解や共感を利用して参加型の機会を生み出す経験をデザインする。

優れた経験を生み出すには消費者の積極的な参加が必要。優れたカスタマー・エクスペリエンスは往々にして経験価値文化の中で働く従業員自身によって提供される。あらゆるタッチポイントに細心の配慮や注意を払うべき。「デザイン思考」は人間中心の問題解決アプローチなので、人間の「物語の能力」が重要な役割を果たす。大半の消費者は、より多くの選択肢を求めているわけではなく、単にほしいものが欲しいだけなので、選択肢に圧倒されると「選択のパラドックス」に陥ってしまう。新製品に関する物語を伝え、神話を生み出す。数字を追いかけるのではなく人間に仕える。技術力だけではかつてのような融資性をつくりにくい。

 デザイン思考を利用してイノベーションポートフォリオを管理する。製品がサービスに変わりはじめているように、サービスは経験へと変化しつつある。デザインは満足できる経験を提供するためのもの。デザイン思考は知識と行動のギャップを埋める。終盤ではよりグローバルな問題とデザイン思考を絡めた主張が展開されている。また、以下のようなポイントが述べられている。

<デザイン思考とあなたの組織>
・スタートからかかわる
・人間中心のアプローチを尊重する
・早めに何度も失敗する
・プロの手を借りる
・インスピレーションを共有する
・大小のプロジェクトを織り交ぜる
イノベーションのペースに合わせて予算を組む
・才能の発掘にあらゆる手を尽くす
・サイクルに合わせてデザインする

<デザイン思考とあなた自身>
・「何を?」ではなく「なぜ?」を問う
・目を見開く
・視覚化する
・他者のアイディアをもとにする
・選択肢を求める
ポートフォリオのバランスを取る
・人生をデザインする

「もはや物理的な新製品の投入だけがイノベーションとはいえない。イノベーションには、新しいタイプのプロセス、サービス、インタラクション、娯楽、コミュニケーション、コラボレーションなども含まれるようになったのだ。これらはまさにデザイナーたちが日々取り組んでいる人間的な課題である」

 

 単なる技術や機能提供だけでの差別化は難しい時代になっている。デザイン思考は、時代が工業生産中心から知識・サービス中心へ移り変わる変化に対応するための重要な武器になる。ハウツー的な話はあまりなく、ケーススタディと概念的な説明が中心だが、デザイン思考に近づくには役立つ本である。

 

文庫、320ページ、早川書房、2014/5/10

 

デザイン思考が世界を変える (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

デザイン思考が世界を変える (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

  • 作者: ティム・ブラウン,Tim Brown,千葉敏生
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2014/05/10
  • メディア: 文庫