著:フランセス・アッシュクロフト、訳:矢羽野 薫
「長期の(宇宙)飛行では赤血球の数が少しずつ減り、骨からカルシウムがにじみ出て、筋肉が萎縮する。このような変化のほとんどは六週間ほどで安定するが、骨の損傷はずっと続き、一年におよぶミッションでも適応は確認されていない」。
科学の本。なんといっても、切り口が良い。人間の体が、どの程度限界ギリギリの環境に適応できるかを論じた本。他の生物についても言及されている。以下の章立て通りの内容である。
1.どのくらい高く登れるのか
2.どのくらい深く潜れるのか
3.どのくらいの暑さに耐えられるのか
4.どのくらいの寒さに耐えられるのか
5.どのくらい速く走れるのか
6.宇宙では生きていられるのか
7.生命はどこまで耐えられるのか
著者はOxford大学の教授。日本に何度か来ているようで、海女や温泉の話が出てくる。
バンジージャンプは落ちた後の急減速がむしろ危ない。宇宙ステーションで寝るときは空気の対流の向きを考慮しておかないと、自分の吐いた二酸化炭素で窒息死する危険がある。水は熱伝導率が空気の25倍なので体温が奪われやすく、冷たい海で遭難した場合はすぐ近くに陸地がある場合を除いてあまりもがかない方が良い。
また、極限状態でのいろんなエピソードも載っている。一番びっくりしたのは、1812年にモスクワから撤退したナポレオン軍の兵士たちが、マイナス28度という条件を利用して馬を生きたまま食糧貯蔵庫にしたという話。
多少分量はあるが、中身はとても面白かった。しかも、特別な前提知識は不要。しかし、このテーマの中に、生物、物理、化学の基礎知識がバランスよく散りばめられている。物知りネタの宝庫としても読める。
ただし、これを読むと、宇宙とか深海に行きたいとは思わなくなるかもしれません。
文庫、382ページ、河出書房新社、2008/5/2
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