密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

文庫解説ワンダーランド

 著:斎藤 美奈子

 

「げに評論家とは恐るべきものなり。語るべき要素が少ない作品をどう語るか、という難問への、ひとつの回答がここにある。作品そのものには深入りせず、余った紙幅はできるだけ絢爛豪華な固有名詞で埋める。天ぷらを大きく見せる『はなごろも』の技法である」(『ひとひらの雪』の解説について)。

 

 文庫となった作品自体ではなく、その解説を読み込んで批評するという趣旨の本。著者自身も3桁には届かないとはいえ、解説をいくつも書いてきたという。いかにもこの人らしい容赦の無い突込みがあちこちで炸裂しており、なかなか面白い。

 

 柴田翔の『されど、われらが日々―』は「理解不能な長すぎる解説」。村上龍作品の解説についても「村上龍作品はいつも『解説され損ねている』という印象が残る」。かつて日本の評論文の世界で尊敬を集めていた小林秀雄作品とその多くの解説を担当している江藤淳についても突込みのオンパレードで、ただでさえ分かりにくい小林秀雄作品に対して「権威を権威たらしめるツール」として機能していると皮肉っている。

 

 ただ、手厳しく批判を行う一方で、「優れた解説は読者に『読み方』のヒントを与える」と繰り返し指摘しており、内容が良ければ解説にも存在意味があると主張している。松本清張作品では、平野謙有栖川有栖の解説をとりあげて、推理小説としてみた場合の松本作品の甘さや傷について指摘した2人の姿勢を評価している。また、いくつかの作品から、良くも悪くも日本の知識人の伝統をかぎとっているところも印象に残った。面白かった。

 

新書、256ページ、岩波書店、2017/1/21

 

文庫解説ワンダーランド (岩波新書)

文庫解説ワンダーランド (岩波新書)