密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

モダンガール論

著:斎藤 美奈子

 

 明治から現代まで、日本女性たちが変わりゆく時代の中でどのように変わってきたかを、女性達の切なる向上の願いや欲望という視点から説明した本。歴史の本といっても堅苦しくはなく、語りかけるような文体で平易に書かれてあり、ぐいぐい引き込む。

戦前
中産階級:良妻賢母思想が「発明」される。女学校がたくさんできる。限定的ながら職業婦人も誕生。ただし、人口比率からみると少数。
・90パーセントが貧乏な労働か小作人:女性は家庭というのは戦後生まれた常識。当時は貧しさゆえに多くが働いていた。女工や女中の仕事は過酷。セクハラも当たり前。しかし農家はもっと厳しく、農作業と家事と蚕飼育と内職でてんてこ舞い。出産直前まで働いて子供を生んでも1日休んでまたすぐ働き出すので、死亡率も高かった。しかも、農家の嫁は姑の元で制約も多かった。
・歓楽街:当時、売春は合法。社会の最底辺でたくましく稼ぐが、労働条件は極めて厳しい。

戦争の時代〜終戦
・男が戦場に行くことで社会に働き手が不足し、それが女性達の存在感を高めて社会進出や自己実現の機会が次々提供される。
・良妻賢母や働く女が美化され、女性達も様々なボランティアでこれに応じる。階級を超えた団結が生まれ、慰問袋を作り、出征兵士を送り出し、英霊を迎え、防空演習、遺族の慰問、質素倹約活動などにいそしむ。軍需工場も次第に女性が増える。
・国の方針で産めよ増やせよが奨励され、様々な手厚い優遇策が作られる。これらは戦後の人口増加に結びつく。

戦後
・戦中に社会を支えた女性達の地位は男性にまた取って代わられるが、新憲法の下で形式上の男女平等は手にする。
・専業主婦が増える。恋愛結婚が増える。短大が激増。高度成長を内助で支える。電化製品の進歩と浸透で、家事の負担が軽くなって時間が余る。戦前は上位10%のものだった憧れの中流夫人の暮らしが、庶民一般のものになる。

1975年以降
・1950年以降下降していた女性の就業率は増加に転じる。1984年には専業主婦と働く主婦の比率が逆転。育児と家事の論争。
・脱OL→キャリアウーマン、脱専業主婦→マルチミセス。

バブル後
・夢をもてなくなった時代と女性達。企業社会のシステムも揺らいでいる。
・介護、ホームヘルパーなどは女性が支え、外食や旅館業などは外国人も多い。

労働力二極化の21世紀3つのモデルケース(文庫版で追加)
・ビジネスエリート
・専業主婦
・出世から下りる(出世とは違う動機に基づく職業選択、生き方の創出)

 いつの時代も時代の先端を走っていたモダンガールたちは様々な批判の対象になっていたことも取り上げている。また、近代史における雑誌や各時代の女性の論客たちの分析力など、女性ならではの強みが各所で発揮されている。なかなか個性的で、読ませる内容に仕上がっている。面白かった。

 

文庫、329ページ、文藝春秋、2003/12

 

モダンガール論 (文春文庫)

モダンガール論 (文春文庫)

  • 作者: 斎藤美奈子
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2003/12
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