著:NHK「ゲノム編集」取材班
2015年7月30日のNHK『クローズアップ現代』用に取材した内容を元に本にしたものである。「クリスパー・キャス9」と呼ばれる手法を中心に、画期的な遺伝子編集技術の発明とその広がりについて追ったものである。
ゲノム編集技術は、これまでの品種改良とも遺伝子組み換えとも違う。「クリスパー・キャス9」は2012年に登場したジェニファー・ダウドナ博士とエマニエル・シャルパンティエ博士の論文が始まり。この手法は、一致する塩基配列をDNAから探し出すためのガイドRNA部分とDNAを切断するキャス9部分である。そして、この切断部分に新たに取り込みたい配列を入れればそれを含んでDNAが修復される。非常に簡単に実現できるが、植物の場合は細胞壁があるのでひと工夫必要になる。ちなみに、クリスパーの発見者は日本人の石野良純教授である。
さすがNHKで、いろんな人物に会って取材をしている。ダウドナ&シャルパンティエ両氏と特許争いをしているフェン・チャン博士。一瞬でゲノム編集ができることを示してくれた日本の魚の研究者。希望するゲノム編集をネットで注文して取り寄せられる「addgene」というネットのサービス運営会社。肉質の良い牛を研究するアメリカの博士。毒のないジャガイモを目指す日本の教授。バイオ燃料に使うため時間当たりの脂質部分を1.5倍速く生産できる藻。HIV治療をはじめとする難病治療への応用。京都大学iPS細胞研究所の挑戦。
その一方で、倫理的な課題もある。ヒトの受精卵を編集することも簡単であるし、実際、中国では既に行われたようだ。遺伝子組み換えとは原理が違うが、ゲノム編集で作り出した植物や動物の肉をそのまま流通させるべきかという議論もある。また、ゲノム編集は通常の遺伝子の突然変異と原理的に見分けがつかないので、黙ってやってしまえばわからない。そのような倫理的な議論の状況についてもレポートされている。
一般向けの番組用の取材に基づいて書かれており、特に難しい内容ではない。多くの取材を通して、ゲノム編集とは何か、どいう期待と課題があるのかが、よくわかるようにまとめられている。
単行本、224ページ、NHK出版、2016/7/23