密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

ラスト・マタギ 志田忠儀・96歳の生活と意見

著:志田 忠儀

 

 1916年山形県生まれのマタギが、90歳を過ぎてから周囲に勧められて書き始めた原稿を、整理・編集して一冊にまとめられた本である。

 朝日連峰の麓に育って、子供の頃から山に親しむ。初めて熊を撃ったのは15歳の頃。鳴込(呼込ともいう)、通切、立前、前方という役割分担でチームを組んで行う、昔ながらの「巻き狩り」の様子。興味深い動物達の習性。たくさんとれた様子が満面の笑みとともに写真に残されている岩魚獲り。トガクシショウマ、冬虫夏草の発見。何度も危険があった足掛け10年の軍隊生活。自然とともにあるが、けして楽ではない山での暮らし。国立公園管理員としての仕事。10年以上の月日を要し、後に勲6等単光旭章を授与されることになった朝日連峰自然保護運動。子供たちが動物や植物を研究することを村を上げて支援した活動は、戸川幸夫氏によって「かもしか学園」という小説になり、知らないうちにそのモデルになっていたという。中古ラジオの話に象徴される家族の話。27年間隊長を務め2次遭難の危険に遭いながらも多くの人命を救った大井沢山岳救助隊の活動。いろいろな思い出が、淡々と、少々武骨に、事実中心に綴られている。

 本書を読みながら、腕のいいライターに任せれば、もっと細かく掘り下げて聞き出し、さらにドラマティックで万人受けする面白い本にまとめることができたかもしれない、と思った。慎重に読むと、小説やドラマにできそうなエピソードがいくつも見つかるからだ。しかし、この本の魅力は、「子どもの頃から勉強が嫌で山にばかり逃げこんでいたので、書くのは大の苦手である」という著者が、高齢をおして自ら書いた原稿を編集したものであるという点にある。すっかりヤワになった現代のわれわれとは大きく異なる、自然と共に生きてきたマタギの歩みが記されている。この国の民族文化史の資料として残すべき価値のある貴重な記録であると思う。

 

単行本、203ページ、KADOKAWA/角川書店、2014/11/28

 

ラスト・マタギ 志田忠儀・96歳の生活と意見

ラスト・マタギ 志田忠儀・96歳の生活と意見

  • 作者: 志田忠儀
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
  • 発売日: 2014/11/28
  • メディア: 単行本