密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

恐山の口寄せで有名な南部イタコ。厳しい修行の末それを受け継いだ女性の解説。「最後のイタコ」

著:松田 広子

 

 恐山の口寄せで有名な南部イタコについて、厳しい修行の末、それを受け継いだ実際のイタコの1人が説明している本。適時、郷土史家による追加の解説が加えてある。

 八戸の豊かな自然と信仰心に支えられて250年の伝統を有してきた南部イタコは、今や10名足らずしかいない。それも、高齢の方を含んでの総数なので、活動しているのはもっと少ないという。著者はその中では一番若く、といっても20年の経験があるのだが、後継者のいない現在の状態が今後も続けは最後のイタコになる可能性があるという。

 元々この地方では、イタコは目が不自由な女性が生きる糧を得るための生業として受け継がれてきたらしい。著者の場合はそのような障害があるわけではないが、小さい頃に身体が弱かったためにイタコのお祓いをうけることが多かったそうで、それがこの道を選んだきっかけになったようだ。

 イタコの主な仕事は以下の4つ。口寄せとお祓いには経文を、神事には祭文を唱えるのだという。イタコになるための厳しい稽古の大半は、それらを覚えるのに費やされる。


・亡き人の霊を降ろす口寄せ
・心身の不調や家庭内のトラブルを祓うお祓い
・オシラ様(東北に伝わる家の守り神)遊ばせなどの神事
・占い

 「世の中を見渡してみれば、納得のいく別れができるケースはごく稀です」とあるように、大切な人を亡くした悲しみや後悔は、簡単に埋められるものではない。安易に他人に相談できないような悩みを抱えて苦しんでいる人もたくさんいる。

 だから、時代は変わって、科学も進歩しているにもかかわらず、恐山にできる相談者の行列は絶えることがない。むしろ、イタコの数が減るに従って、待ち時間は長くなっているという。

 中には、非科学的だと批判しに来たり、興味本位の質問をしてくる人もいるようだ。しかし、著者はそれらに対して、自分には科学的なことは分からないと冷静に受け止める一方で、本当にイタコを必要とし、それこそすがる思いで訪れる相談者に対して、日々真摯に向かい合っている。

 呼び出せるのは近親者に限られるので、近親者ではない普通の日本人が興味本位でジョン・レノンの霊を呼んでほしいといってもダメなのだそうだ。

 ただ、口寄せの様子については、申し出れば録音してもよいという。その場合は、通常1回3000円程度の料金に1000円を加える。実際に録音すると、「おかあさん!」という子供の声がテープに残っていたり、ポルターガイストのようなラップ音など説明のつかない音が入ることが頻繁にあるらしく、相談者の間で評判になって広まったという。

 中には、死後判明した浮気の苦情を言う為に夫の仏を呼び出す人もいる。お祓いや相談に関しては、以前は病気治癒目的の人が多かったのが、最近は精神的に疲れて心身のバランスを崩している人が増えているそうだ。

 巻頭には、イタコが使う道具や、オシラ様遊びの様子の写真もある。著者は、法衣を脱ぐとごく普通の2児の母親だが、イタコとしての毎日は伝統や神仏と共にあるというのが伝わってくる。

 後継者育成の望みはまだ捨てていないようで、「最後のイタコ」というこの本のタイトルが現実のものとならないよう、何とか次の世代に伝えられてゆくことを希望している。

 

 本書を読んで、イタコというのは古代よりあった日本のシャーマニズムを継承する貴重な文化であるという認識を強く持った。

 

単行本、188ページ、扶桑社、2013/7/22

最後のイタコ (扶桑社BOOKS)

最後のイタコ (扶桑社BOOKS)

  • 作者: 松田広子
  • 出版社/メーカー: 扶桑社
  • 発売日: 2013/12/20
  • メディア: Kindle版