密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

つじつまを合わせたがる脳 (岩波科学ライブラリー)

著:横澤 一彦

 

 脳の錯覚や情報不足を補って判断する仕組みについて簡単に解説した本。著者は認知科学を専門とする科学者。

 ラバーハンド効果は、偽物のゴム製の手でも自分の手のように感じてしまう現象。幽体離脱体験とは、自分を背中から映した映像をヘッドマウントディスプレイで見ながら刺激を受けるときに後ろにある自分の姿にも自分の存在を感じてしまう現象で、終わると2つの自分の体が統合される感覚を味わうという。マガーク効果とは、視覚情報と聴覚情報のつじつま合わせのために起きる現象。腹話術効果とは、文字通り腹話術で利用される錯覚である。さらには、選択の見落とし、変化の見落とし、色の恒常性ということも扱われている。

 情報不足やノイズなどによって論理的につじつまの合わない現象が発生しても、我々の脳はうまくつじつま合わせをすることで適応し、その環境に対応することが可能になっている。映画の吹き替えなどもそのような適応の一種である。現実世界はいつも十分かつ正確な情報が得られるわけではなく、そのような中でも我々の脳はベターな解を導き出してゆく。人間はあらゆる情報を精査して生きているのではなく、限られた情報からつじつま合わせをすることで生き延びてきたと説かれている。

 近年、VR(Virtual Reality)やAR(Argument Reality)といった技術が注目を浴びており、産業への応用も期待されている。本書の研究分野は、そのような先端技術と組み合わせることで実用的な分野でも活用できる可能性があるように感じた。

 

単行本、128ページ、岩波書店、2017/1/20

 

つじつまを合わせたがる脳 (岩波科学ライブラリー)

つじつまを合わせたがる脳 (岩波科学ライブラリー)

  • 作者: 横澤一彦
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2017/01/20
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)