著:マルク・ミロン、訳:竹田 円
「人間が創造したあらゆる飲みものの中で、ワインには、私たちの生活に喜びをもたらす別格な力がある。ワインは、儀式のための酒であり、悲しみ、憂いに暮れているときの慰めであり、生きていることの幸せを感じさせてくれる、日常の飲みものである」。
「食」の図書館シリーズの一冊。ワインを扱っている。海外の本を翻訳したものである。
ワインは、8千年前にコーカサス地方から小アジア、そして地中海へと広がったといわれる。
システマティックな栽培は陶器の発達が後押しした。壺にいれて地中に埋めたり洞窟に入れて長い期間保存できるようになったからだ。様々な選別や改良がおこなわれ、現代ではヴィニフェラ種が主流となっているが、それ以外の種や交雑品種もある。
古代エジプトではファラオの墓にワインセラーがあった。古代ギリシャや古代ローマで好まれたワインは、そのままというよりも、はちみつなどを混ぜたり薄めたりして飲まれることが多かったようだ。薬の一種としてもみなされた。また、安全な生の水が手に入りにくい地方では飲料として重宝された。
古代ローマの支配地域ではワインの製造が広まってゆく。ワインはキリスト教やユダヤ教では儀式になくてはならない酒にもなる。教会はブドウ畑を持ち、ワインの醸造および研究所でもあった。
こうして広まったワインだが、実は、ヨーロッパのワイン産業は19世紀にフィロキセラというアブラムシによって壊滅的な被害をこうむった。フィロキセラに耐性があったアメリカのぶどう種を台木にヴィニフェラ種を接ぎ木したものを改めて植えなおし、ヨーロッパのブドウ畑のブドウは20世紀初頭にほぼ全て入れ替わっているという。
フランスには「テロワール」という概念がある。A.O.C制度が整備され、各地でユニークなワイン造りが行われてきたフランスは、今でもワインの基準といえる。
イベリア半島のワインの歴史も古く、サック(シェリー酒)が有名だった。また、ポートワインは航海にもっていくのに便利でイギリス人やオランダ人に好まれた。
イタリアのワイン作りの歴史は長く、各地に個性的なワインがある。ただし、1970年ころまでイタリアではブドウは量で評価されていたので、高級ワインは近年になって立ち上がった。
ドイツも個性的なワインを多く有している。ただ、近年は世界的に辛口のワインが好まれる傾向があるため、少し苦戦しているようだ。
アメリカのワイン産業は、禁酒法時代に打撃をこうむったものの、西海岸を中心に今やワインの世界的な産地となっており、品質面でも素晴らしいワインが登場している。
メキシコではワインはテキーラやブランデーに押され気味。アルゼンチンの一人当たりのワイン消費量は減っているが、高級ワインの産地になっている。近年評価が若待っているチリのワインの歴史も古い。
オーストラリアは新世界のワインの代表ともいえ、いち早く大半をスクリューキャップにしてしまったように、新しい技術をすみやかに取り入れて存在感を発揮してきた。ニュージーランドは長く良いワインはできないといわれていたらしいが、実は高品質ワインには理想的な気候条件であることがわかってから盛んになった。
南アフリカのワイン作りもさかのぼれば意外に長い歴史がある。また、中国は今やワインの一大生産国になっているが、基本的に国内消費中心であるという。
ワインの製造方法についても書かれてある。赤ワインと白ワインの違い。スパークリングワインの2種類の作り方。灰色カビ病に感染したぶどうから作る甘いデザートワイン。酒精強化ワイン。ヴィンテージもの。
近年の地球温暖化はワイン作りにも大きな影響を与えている。今まで寒冷でぶどう作りには向かない土地でもワインが作られるようになった一方、古くからの産地では成熟度が高くなりすぎるという問題が生じているからだ。
技術の進歩はワインの大量生産に寄与したが、多彩なぶどうの品種のうちいくつかのものだけが大量に生産される現象を生んだりもしている。遺伝子改良を行うと、いろいろなメリットもあると考えられるが、今のところそれは消費者の反発が大きい。
平易に書かれていて読みやすい。日本のワインについては本編では言及されていないため、翻訳者が訳者あとがきで説明を加えている。西洋の歴史はワインと密接な関係があるので、ワインが好きでもそうでなくても一般教養としてざっと読んでおいて損はない。
単行本、181ページ、原書房、2015/11/20
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