密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

マッキンゼーが教える科学的リーダーシップ――リーダーのもっとも重要な道具とは何か

著:クラウディオ・フェサー、訳:吉良直人

 

「端的に言えば、どういった感情も、良いとか悪いという判断はできない。どの感情も特定の目的に合致したものであり、通常の社会的、人間的機能を果たす上で必須のものである」

 

インスピレーションを与えるリーダーシップについて説いた、「インスピレーショナル・リーダーシップ」の考えを説明した本。組織や人にインスピレーションを与えることができれば大きな効果をもたらすことが前半部分で力説され、コミットメント、満足度、生産性のいずれの面でも高い効果をもたらすとされている。ただ、実際にそれを効果的に使うのは難しい。一方で、「インスピレーショナル・リーダーシップ」を駆使するための行動パターンは意図的に学ぶことができるとされている。

 

内容としては、本書の冒頭部分で書かれているように、比較的やわらかいものである。「インスピレーショナル・リーダーシップ」を駆使した事例は物語のように丁寧にまとめられていくつも出てくる。また、それについての分析的な説明も行われている。そして、例えば、以下のような流れについての説明が行われている。

 

[価値観と感情を駆動する要因]

              ↓

[価値観と感情]

              ↓

[振る舞い]

 

ただ、本書の例に出てくる人たちが、「インスピレーショナル・リーダーシップ」を体系的に学んだ結果そうなったということではなさそうである。

 

この本の中で、多少なりとも「科学的」といえそうなのは、後半に出てくるマーク・ジェンセン博士のWAPL(What Are People Like?)フレームワークである。これは人間のふるまいに影響を与える以下の4つから質問をまとめたものである。

 

文脈:関連する文脈。例えば、動機付け、ステークホルダーと期待するもの。

・この人物の動機は何か?

・何を期待しているのか?

・この組織的な文脈は?

・この組織の文化は?

・人間関係の力学はどうなっているか?

・他の人たちはこの人物をどう評価しているか?

・この人物はプレッシャーに直面しているか?

 

ノウハウ:知識あるいは経験。例えば、教育、関連する事実・手法の知識、過去の経験。

・業界で価値を生み出すものとそのトレンド

・顧客と成長市場への理解

・最新の技術知識

・関連した教育を修了している

・過去にどのような組織で何をしてきて、どのような課題を克服してきたのか?

 

スキルと能力:後天的あるいは先天的能力。問題解決、コミュニケーション、リーダー能力。

・複雑な問題を効果的に解決する

・健全な意思決定をする

・高い業績を達成するチームを築く

・人を引き込むコミュニケーションを行う

・高い業績を引き出すインスピレーションを与える

・何が得意なのか、スキルを尋ねる


マインドセット(思考様式):無意識の仮説や思考・感情の習慣。価値観、パーソナリティ、感情。

・例えば、パーソナリティ理論に基づき、その人のマインドセットや価値観を理解する

・パーソナリーマーカーとしては、開放性、勤勉性、外向性、協調性、神経症的傾向

 

ひとつ印象に残ったのは、適度にネガティブな感情というものもモチベーションになりうるという指摘である。スティーブ・ジョブスは一緒にいて楽しい人ではなかったし、古代ギリシャの哲学者から現代の実在主義者まで多くの偉大とされる人は少々変わり者あるいは問題を抱えた人であったし、フランス革命も楽観主義者によってではなく怒りを爆発させた人々によって起こっているし、マッキンゼーにおいて成功する人の多くは不安感を抱えてそれをエネルギーにしている人たちだという。どんな感情であっても、それ自体を問題にするのではなく、人がどのような感情を持っているかを正しく理解して制御して役立つようにすればよい。

 

あとは、「組織に変革をもたらす4つのテコ」として、以下のものが説明されている箇所もある。

ロールモデル

・コミュニケーションで理解と確信を深める

・組織変更やプロセスルール変更によるインセンティブ

・能力開発

 

また、組織に「自律的な業績管理」をもたらすものとして、以下の3点が挙げられている。

・測定基準

・自身の組織を作る自律性

・学習サイクル

 

ただ、全体的にみて、この本の内容をタイトル通り「科学的」とするのはためらわれる。また、特に前提条件は必要ないし、読みにくい本でもないが、読んでいるだけだと、「ふーん」で終わってしまいそうな感じもする本である。

 

単行本、324ページ、ダイヤモンド社、2017/10/26

 

マッキンゼーが教える科学的リーダーシップ――リーダーのもっとも重要な道具とは何か

マッキンゼーが教える科学的リーダーシップ――リーダーのもっとも重要な道具とは何か