著:ケリー・マクゴニガル、訳:神崎 朗子
「しっかりと自分をコントロールできる人は、自分と戦ったりはしません。自分のなかでせめぎ合うさまざまな自己の存在を受け入れ、うまく折り合いをつけているのです。自己コントロールを強化するための秘訣があるとすれば、科学が示しているのはだだひとつ、注意を向けることがもたらす力です」。
あまりに狙いすぎなタイトルなのでしばらく避けていたが、一時話題になってよく売れたようなので読んでみた。先生はなかなかの美人だし。広い意味ではいわゆる自己啓発本だが、様々な心理学の成果を意志力を高める方法という視点から構成して解説しており、結論としては良い本だった。
精神力とか、決心とか、羞恥心とか、罪悪感とか、そういったものは頼りにしていないのが意志の弱い人間には嬉しい。むしろ、そのようなものの効果については疑問視しており、考えないようにしようとするとそれが頭から離れなくなる皮肉なリバウンド効果すら生み出すとしている。誘惑に負けてしまう自分が悪いわけではなく、大事なものについての嗜好が異なるもうひとつの自己があるだけであり、欲望を失えばかえって憂鬱になるし、恐怖を感じなければ身を守れなくなるので、意志を妨げるようにみえるもうひとつの自分もそれはそれで大切な存在なのだという。
ゆっくり呼吸してみる。瞑想は下手な方がむしろ効果がある。運動は自己コントロールの機能を改善するし、そのための運動量はわずか5分でいい。依存症の患者には睡眠薬が効くように寝ることは意志力を高める。朝はもっとも意志力が働きやすい。ストレスは大敵。血糖値を下げると脳は危険な行動を選びがちになるので、低血糖食品をうまくとる。自制心を要する小さなことを毎日する(姿勢をよくする、出費を記録する他)で意志力は鍛えられる。立ち止まって、自分はなぜ頑張っているのか考えてみる。本当に効果のあるストレス解消法はドーパミンを放出して報酬を期待させるものではない。どうにでもなれという気持ちと向かい合うには、自分に厳しくするのではなく、自分を励まし優しくするようにする。脳に賢明な判断をさせるには10分間置くようにする。将来の自分の姿を想像してみる。
自己コントロールとは、自分自身のさまざまな一面を正しく理解して対処できるようになることであり、違う人間に生まれ変わることではないという。ある意味逆説的だが、なかなか説得力があった。
文庫、366ページ、大和書房、2015/10/10