密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの

著:松尾 豊

 

 人工知能について解説した本。著者は日本を代表する人工知能研究者の一人。本書は昨年出版され、専門分野を扱う本としては異例の5万部を売り上げたという。機械学習、特にディープ・ラーニングについて、それがどのようなもので、今までのAIとは何が違うのか、どうすごいのか、といったことについて解説。さらに、その先にどんな可能性が広がっているのかについての著者の考えを披露している。

 ベストセラーになった本で内容については既に知られているが、最近多くのAIの本を読みPython機械学習をやり始めた立場からすると、著者の書いていることは非常によく理解できた。日本各地の天気の特徴の捉え方を例にした説明とか、数式もプログラムも一切使わず、ここまでわかりやすくうまくまとめていることに感心させられた。

 特徴量をデータから自動的に見出し学習する。超えられない壁に大きな穴があけられた現在、その可能性は極めて大きい。この延長で考えていけば、確かにいろいろな想像が可能だし、いままでにないことが人工知能でできるようになるだろう。本書にあるように、人間が感じることのできない周波数帯やより微細な情報も収集することによって人間の知能とは違う知能が生まれたり、生物のような自己増殖機能や本能は無い知能だけに尖がったものとして独立したり、それこそ考え始めたら寝られなくなるような可能性がいくらでも考えられる。

 ただし、大きな壁が破られたとはいえ、ディープ・ラーニングはまだヨチヨチ歩きの技術である。人々の期待には誤解や行き過ぎではないかと思われるものも多く含まれている。個人的な経験になるが、ある講演において有名な研究所の所長さんが、「日本のホワイトカラーの生産性が低いのは構造的・組織的な問題なのに、それをAIでなんとかできないかということを言ってくる人が最近は多くて困る」と苦々しく語っていたのを聞いたことがある。国際競争において日本がどのようにこの分野で伍してゆくのかという課題もある。著者は終盤で日本の人工知能学会の人数を挙げてアメリカに伍していける可能性があるようなことを書いているが、実際はアメリカをはじめとする海外のAI研究の投資額は日本を大きく凌駕しており、しかも検索エンジンクラウドでの基盤を押さえている強みもあって、抱えているデータも桁が違う。一方、日本でも産学協調の試みの強化などが行われている。ただ、今の時点でも、これだけははっきりいえる。人工知能は人類の未来を大きく変えるだろう、と。

 

単行本、263ページ、KADOKAWA/中経出版 、2015/3/11

 

人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの (角川EPUB選書)

人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの (角川EPUB選書)

  • 作者: 松尾豊
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/中経出版
  • 発売日: 2015/03/11
  • メディア: 単行本