密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

旅客鉄道に比べると地味だが、実は多彩で奥深い。東京~大阪間の在来線での歴代最速も貨物列車。結構面白い、『貨物列車の世界』

編:交通新聞社

 

 鉄道オタク向けの本はいろいろあるが、これは貨物列車だけに焦点を絞ったもの。硬派な内容で、いろいろな分野で利用されている貨物列車が登場する。写真が多く、カラー印刷で、ムック本サイズ。

 所要時間6時間12分という東京~大阪間の在来線での歴代最速で運行されている「スーパーレールカーゴ」は佐川急便と二人三脚で企画され、上下線合わせて1日に56個のコンテナを運ぶ。これによって56台分の10トントラックが不要になったことになるため、2006年には「物流環境負荷軽減技術開発賞」を受賞している。「福山レールエクスプレス」は東海道だけでなく、山陽・九州も結ぶオーダーメード列車である。日本通運の「エコライナー」は現在13種類が存在するという。トヨタもCO2削減を目標に2006年から「ロングパス・エクスプレス」を実現している。

 「クリーンかわさき号」は市のごみを処分場へ運ぶ。都市鉱山と呼ばれる廃棄物を送って貴金属精製を行うために運行されている「DOWA号」もユニークな存在だ。日本製紙はほとんど紙輸送に特化した列車を石巻工場から走らせている。北海道の紅葉した石北本線を走るたまねぎ列車の写真は目を引く。青函トンネルを通って北海道から生乳を運ぶコンテナ列車もある。地味だが、東京液体化成品センター向けの化成品輸送は50年の歴史を持っている。LNGやポリエチレン・ポリプロピレン、酸化エチレンのコンテナ輸送も取り上げられている。

 かつての鉄道貨物は、「4セ」と呼ばれる石炭・石灰石・セメント・石油が主役だった。しかし、今は石油以外の鉄道輸送はかなり少なくなったようだ。石油タンク車は見た目ですぐそれとわかるが、首都圏・岩手県三重県・長野県と国内の複数の製油所や貯蔵施設をつなぐ輸送網があることが紹介されている。在日米軍横田基地向け燃料輸送もある。セメントについては、太平洋セメント専用列車、製鉄所向け石灰石列車もある。石炭輸送を専業とする太平洋石炭販売輸送の石炭列車は日本で唯一となった坑内堀りの石炭生産会社である釧路コールマインが採取した石炭を輸送している。

 北海道から九州までの運転距離が2130㎞と圧倒的に長距離を走る日本列島縦貫貨物列車は29年の歴史を誇る。目を見張ったのが、150mもある長尺レールを輸送する列車。この長さになると道路輸送は困難であるという。急曲線ではレールがガイドに沿って曲がっていて、なかなか驚く。発電所の変圧器が多いようだが、特大貨物輸送も目を引く。ここは吊掛式大物車への積付への実際の様子が写真で細かく解説されている。陸上自衛隊の機材輸送列車もある。黒部峡谷鉄道というと観光列車として有名だが、富山県から黒部発電所に至る道路は存在しないため物資輸送のための鉄道としても貴重で、様々なものが輸送されている。

 旅客列車に比べると地味ではあるが、本書を読むと、貨物列車の世界は実にバラエティに富んでいることがわかる。すっかり車社会になってしまった日本だが、資源の大量輸送など鉄道の方が向いた分野はあり、CO2対策としても注目を浴びていることから、社会を支える裏方的な存在として大変重要なものであることに気づく。鉄道オタクむけとして限定して奨めるのはもったいないと思うくらいである。予想より面白かった。

 

ムック、175ページ、交通新聞社、2017/7/15

 

貨物列車の世界 (トラベルムック)

貨物列車の世界 (トラベルムック)