密林の図書室

日々読んでいる本の備忘録を兼ねた書評と内容の概要紹介及び読書感想をまとめたブックレビューのブログです。人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものと考え、このブログを立ち上げました。過去に別名でAmazonのレビュー欄に掲載したものとそちらには未掲載のものがあり、後者は「Amazonレビュー欄未掲載」タグをつけてあります。

ゲノム編集とは何か 「DNAのメス」クリスパーの衝撃

著:小林 雅一

 

 タイトル通りの本。ノーベル賞受賞が確実視されているエマニュエル・シャルパンティエ(Emmanuelle Marie Charpentier)とジェニファー・ダウドナ(Jennifer Anne Doudna)の女性2人の共同チームが試験管内でクリスパー(CRISPER)によるDNA編集に成功したと「Science」に発表したのは2012年6月。今や、ゲノム編集は、簡単に、早く、DNAを編集してしまう技術として生命科学の分野で注目の的になっている。

 ゲノム編集のCRISPER-Cas9は、人工合成されたガイドRNAと組み合わせて利用し、DNAを標的となる特定の塩基列で切断するメカニズムのことである。切断されたCas9誘導性DSB(DNA二本鎖切断)部位は、相同組換え型修復(HDR)で修復される。この仕組みは、きちんと指導を受ければ高校生でも数週間でできるようになるし、将来は現在の美容整形くらいの頻度で普通にDNAを編集する時代が来るだろうという。狙ったところから外れてしまうオフターゲット効果も1%に抑えられるようになったらしい。

 新生児は1人あたり50~100個の突然変異をもって生まれてゆく。SNP(Single Nucleotide Polymorphism)やSNV(Single Nucleotide Variant)と呼ばれる変異、もっと大きなCNV(Copy Number Variant)と呼ばれる変異もある。さらに大規模な転座(Translocation)という現象も起きる。現代では、DNAチップを用いたGWAS(Genome Wide Association Study:全ゲノム解析)によってかなりの数のSNPが特定されている。ゲノム編集技術は、このようなDNA上の変異を編集することができる。

 ゲノム編集技術は既に使われており、腐りにくいトマトや肉量がそれまでの1.5倍の魚が誕生している。ゲノム編集技術は、人間へも適用できる。特に、遺伝子治療と組み合わせれば大きな治療効果が期待できる。生体外治療としてはDNA取り出して変異している部分を編集して体に戻す方法か、正常な遺伝子を組み込んだウイルスを異常な遺伝子を有する細胞に感染させることで置き換える生体内治療がある。これによって、例えばガンを免疫作用で治すことが可能になる。そもそも、生殖細胞のDNAを書き換えてしまえば、遺伝的な原因で生じる病気を出生前にあらかじめ防げるし、身長の高い子供とか、目鼻立ちのはっきりした子供とか、いろいろなことができる可能性が高い。

 本書では、従来の遺伝子組み換え技術がどれほど大変で骨が折れて問題の多い方法であったのか、ゲノム編集技術との比較で解説されているところもある。DNAの役割についての簡便な解説も載っている。また、遺伝子編集技術の先陣争いや特許係争についても取り上げられている。また、このように遺伝子が簡単に編集できる時代が来たことで、人間自体を好き勝手に編集したり好ましい能力や容姿を持った子供を産むといったことができることへの懸念も表明されている。加えて、Googleなどが注力していることや、日本がこの分野でやや立ち遅れていることも書かれている。

 おそらく1か所にまとめて書いた方がよいことが分散して書かれていたりと、本としてのまとまりはもうひとつのところはあるが、科学の本としては理解しやすい方である。ゲノム編集とは何か、どうすごいのか、遺伝子組み換え技術とどう違うのか、どういう問題があるのかについて知るには良い。また、ネットにもいろんな情報が出ているので、本書を読んでからそれらを検索して読めば、さらに理解が深まるのではないかと思う。

 

新書、256ページ、講談社、2016/8/18

 

ゲノム編集とは何か 「DNAのメス」クリスパーの衝撃 (講談社現代新書)

ゲノム編集とは何か 「DNAのメス」クリスパーの衝撃 (講談社現代新書)

  • 作者: 小林雅一
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2016/08/18
  • メディア: 新書