密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

ピアノの名曲 聴きどころ 弾きどころ

著:イリーナ・メジューエワ

 

モーツァルトは(楽器を演奏する)手の感覚よりも歌を基本に考えていた人だと思います。大切なのは、声の美しさ、息、あるいは響き。キャラクターの心の動き、顔の表情。ジェスチャー。そっちのほうが大事なんですね。それをどうやって、ピアノで表現し、演奏するか。…(中略)…やっぱりモーツァルトの基本は人間の声なんです」。

ベートーヴェンのピアノ・ソナタ全般については、弦楽四重奏的な発想で書かれているという特徴があると思います。その基本の発想は、メロディと伴奏ではなく、和声の動き、横の線と縦の線の組み合わせです…(中略)…ベートーヴェンは四声部の扱いに関してだれにも負けないという自信がありました」。

 

 日本を拠点として活動するロシア出身の美人ピアニストが、クラシック音楽のピアノの名曲について鼎談(ていだん)形式で語った本。会話は基本的に日本語で、それに一部ロシア語や英語やドイツ語を交えて行ったという。

 取り上げられているのは、バッハ 『平均律クラヴィア曲集』『ゴルトベルク変奏曲』、モーツァルトピアノソナタ第十一番「トルコ行進曲付き」』、ベートーヴェンピアノソナタ第十四番「月光」』『ピアノソナタ第三十二番』、シューベルト 『四つの即興曲』より第三番『ピアノソナタ第二十一番』、シューマン 『子どもの情景』より「トロイメライ」『クライスレリアーナ』、ショパン 『練習曲集 作品10』より第三曲「別れの曲」、リスト 「ラ・カンパネラ」『ピアノソナタロ短調』、ムソルグスキー展覧会の絵』、ドビュッシー『ベルガマスク組曲』より「月の光」、ラヴェル『夜のガスパール』である。

 著者は、『夜のガスパール』以外、ここに取り上げられた作品はすべて録音も行っており、作品について熟知していることがよく伝わってくる。実際、この本で取り上げられている曲数は少ないのに、全体のページ数は多い。つまり、1曲ずつの解説に時間とページを割き、とても丁寧で、時に非常に深いのである。適時、実際の譜面を掲載しての解説も行われている。

 型にはまった解説ではなく、その作家の特徴、他の作曲家との比較、手紙などの歴史的な資料、国民気質の違い、自ら演奏してきた体験を交えながら自由に語っており、惹きつけられる。

 

 この人のCDは一時クラシック音楽ファンの間で話題になったメネトルを中心にいくつか持っているが、この中で唯一まだ録音していないという『夜のガスパール』も、そのうちぜひ、録音してほしいと思った。

 

新書、352ページ、講談社、2017/9/20

 

ピアノの名曲 聴きどころ 弾きどころ (講談社現代新書)

ピアノの名曲 聴きどころ 弾きどころ (講談社現代新書)