密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

本当においしい牛肉とは何か。等級制度からは見えない真実。『炎の牛肉教室』

著:山本 謙治

 

 例えば、その牛肉がA5等級だったらおいしいか、というとそのようなことは無いという。著者は、牛肉の味は次のような公式によって決まると主張している。

 

(牛の品種 X 餌 X 育て方)X 熟成 = 牛の肉の味

 

 掛け算なのだから、()は要らないのでは?という突っ込みを入れたくなるが、この()の意味は牛が育てられている間のプロセス、という意味のようだ。牛肉の本。著者は、食についての本をいくつか書いている農畜産物コンサルタント。食事のブログも運営しているそうだ。

 

 品種はおいしさの方向性を決める。大きくは「肉用種」と「乳用種」に分かれ、味の淡白な乳用種でもオスは食肉用にまわされる。和牛ではなく国産牛となっているのはたいてい乳用種で、食肉用の牛の43%を乳用種が占めている。「和牛」は、「黒毛和牛」「褐毛和牛」「日本短角種」「無角和種」の大きく4種類あるが、比率としては黒毛和牛が圧倒的に多くて41%を占める。肉用種と乳用種を交雑したものも13.5%を占める。

 

 食べたものは味に直結し、大きくは牧草(グラスフェッド)か穀物(グレインフェッド)か。牧草もいろんな種類があるので、それによって味は変わる。日本では食用の放牧牛はほとんど無い。海外から輸入した穀物に頼っている。

 アメリカはトウモロコシを使うのが主流。また、成長を早めるために肥育ホルモンを使う。一方、オーストラリアは放牧が中心で、穀物を与える場合でも出荷前の数か月にするようだ。

 育て方はオーストラリアに代表される多い放牧か、日本の和牛に多い畜舎での飼育。オーストラリアでは、羊と牛が食べる草の丈が違うので、牛が背のある草を食べた後に羊を放牧する、というようなことが行われている。

 草を多く食べた牛の肉は少し黄色くなり、脂っぽくない。オーストラリアの南部は牧草の質がよく、赤身中心のおいしさ。タスマニアビーフが代表的。

 

 屠畜してすぐの牛は味気ない。日本でも熟成させて味をおいしくするという考え方が浸透してきたが、うまく熟成されていない腐敗寸前のものを熟成として売っているケースもあるようだ。一般に、鶏は半日から1日、豚肉は3~5日、牛肉は10日前後が一般的だが、ステーキ専門店では20日以上寝かせることはあるし、空気に触れさせて熟成させるドライエイジングの場合は45日前後の期間をとる。ただ、見た目が悪くなるのでスーパーでは熟成期間の長い肉は敬遠される傾向にある。

 

 著者自ら日本短角種のオーナーになってみた体験談や各国を訪れて体験した食肉文化体験の話もある。フランス人は牛の脂は敬遠するというような国別の好みの違いについても書かれている。

 日本の牛肉文化の独自性や特殊性がわかると共に、牛肉の奥深さについても感じられる本である。

 

新書、224ページ、講談社、2017/12/13

 

炎の牛肉教室! (講談社現代新書)

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