密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

人類は歴史上25種類程度存在してきたが、生き残ったのはホモサピエンスのみ。『絶滅の人類史―なぜ「私たち」が生き延びたのか』

著:更科 功

 

「つい私たちは、進化において、『優れたものが勝ち残る』と思ってしまう。でも、実際はそうではなくて、進化では『子供を多く残した方が生き残る』のである。『優れたものが勝ち残る』ケースはただ1つだけだ。『優れて』いたせいで『子供を多く残せた』ケースだけなのだ」。

 

 人類と呼ばれるものは確認されているだけで今まで25種程度存在してきたことがわかっている。複数の種類の人類が存在した時代もあり、それによって、例えば、アフリカ系を除くわれわれホモ・サピエンスのDNAにはネアンデルタール人との交雑によって受け継がれた遺伝子があるし、デニソワ人もホモ・サピエンスと交雑していた。ところが、現在の地球上には、人類はホモ・サピエンスしか存在していない。

 本書は、チンパンジーと人類が700万年前に共通の子孫から枝分かれして、どのような道をたどり進化し、どのような特徴を持った人類が誕生し、絶滅していったのかについて、様々な研究成果を紹介しながら著者の考察と推論を加えて説明した本である。

 

 初期人類は森林から追い出されて疎林に住んでいたと考えられる。生きていくためにいろいろなものを探して食べる必要があり、他の動物にはきわめてめずらしい直立二足歩行の生き物に進化した。直立二足歩行は走るのが遅いが、長距離走には向いている特徴がある。また、立っているので目立ってしまうが高い位置から視界がとれ、手で物を運べるという利点がある。そしてこの特質は、一夫一婦に近い形態をとった人類にとって、夫が妻に食料を運ぶために有利になる。ちなみに、ニホンザルなどは食料を仲間で分け合うことはしない。人類は犬歯も縮小させた。

 脳はエネルギー代謝の大きな部位である。人類は700万年前に二足歩行をはじめたが、脳の大きさが大きくなりだしたのはホモ族が登場した250万年前とかなり間があいているので、二足歩行が脳を大きくしたとは言えない。石器を作り始めたことでエネルギー効率の高い肉食ができるようになり、脳を大きくできるようになった可能性が高い。ホモ・サピエンスがアフリカを出て広がり始めたのは、120~170万年前になる。

 

 一般的に、脳の大きさと哺乳類の社会性には関係性があるといわれる。ただ、脳の大きさがすべてとも言い切れない。確かに、われわれ現代のホモ・サピエンスの脳の大きさは約1350[㏄]あり、人類の比較的近縁といえるチンパンジーの約390[㏄]より圧倒的に大きい。ところが、1万年前のホモ・サピエンスの脳の大きさは現代人よりも大きい約1450[㏄]あり、かつて滅んでしまったネアンデルタール人の脳容量にいたっては約1550[㏄]と、ホモ・サピエンスより大きい。加えて、ネアンデルタール人ホモ・サピエンスと同じく言語と関係するFOXP2遺伝子を持っていたことがわかっており、言葉を使っていた可能性が高い。

 「ガウゼの法則」によると、同じ生態的地位を占める2種は同じ場所に共存できないという。ネアンデルタール人の絶滅はホモ・サピエンスの進出とタイミングが重なっていてかつ短期間で生じているため、その影響と考えることが妥当。著者は投槍機の有無に注目し、両者の狩猟技術に差があったと述べている。

 

 このような本を読むと、我々の存在がどのような経緯を経てこうなっているのかということに、自然に思いをはせることになる。また、ネアンデルタール人に限らず、ホモ・サピエンスによって直接・関節的に絶滅に追い込まれた動物は現代にいたるまでたくさんいることにも気づかされる。われわれホモ・サピエンスだって、1万年後にはどうなっているかわからない。もしかしたら生き残っていないかもしれないし、別な進化を遂げているかもしれない。著者自身も、結びの部分において、AIを持ち出しながら、そのような夢想をしている。

 

新書、249ページ、NHK出版、2018/1/8

 

絶滅の人類史―なぜ「私たち」が生き延びたのか (NHK出版新書)

絶滅の人類史―なぜ「私たち」が生き延びたのか (NHK出版新書)

  • 作者: 更科功
  • 出版社/メーカー: NHK出版
  • 発売日: 2018/01/08
  • メディア: 新書