密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

人類への道 知と社会性の進化 (別冊日経サイエンス)

編集:篠田 謙一

 

 「サイエンス・アメリカ」をベースにした科学雑誌「日経サイエンス」から、人類の進化に関する記事を集め、4章に分けて編集されたものである。

 今、地球上には人類は私たち現生人類(ホモ・サピエンス)しか存在していないが、かつてはそうではなく、広い意味での人類(ホミニン)には歴史上いくつもの種類があったことがわかっている。「第1章 化石発見の最新情報」では、人類の共通の故郷とされるアフリカを中心に、ホミニンに関する近年の考古学的な発見を紹介。人類が歩んできた複雑に枝分かれして曲がりくねった歩みを感じさせる。

 「第2章 猿人からホモ属への変化」では、約700万年前に類人猿から枝分かれし、さらに200~300万年前にアウストラロピテクス属からホモ属に移行した人類の変化が、何によってもたらされどう変わったのかについての学説が集められている。例えば、大型肉食動物種の衰退とほぼベジタリアンだった人類の祖先が動物性食物に大きく依存し始めた時期が一致しているという。また、アフリカの大きな気候変動の時期と人類の祖先に生じた大きな変化の時期も一致しているという。肉を加熱調理して食べる習慣が生まれたことが腸の長さの短縮や歯の小ささや、効率的なエネルギー吸収による脳の大型を生んだと主張している学者もいる。GPS衛星で撮影した画像からコンピュータで化石のありそうな場所を見つける研究も紹介されている。

 「第3章 ヒト誕生の理由を探るヒトとその社会の特徴」では、まず、人類とDNAが99%同じチンパンジーの平均寿命が13年であることを筆頭に他の多くの動物と比べてもホモサピエンスの寿命がかなり長い理由と、進化のどの過程でそのように長い寿命になったのかという理由として、肉食をはじめたことで防御機能が進化したことが関係しているという仮説が載っている。一夫一妻になった理由、直接血のつながりがないグループ同士でも協力しあうことができる特徴がホモ・サピエンスを地球上で最強の生物種になったという説や、石器を中心に道具作りが人類の脳の進化にどういう影響を与えたかという研究の説明もある。

 この3章で面白かったのは、ネアンデルタール人の知性についての解説。かつてはホモサピエンスより認知能力が劣るとされてきたが、文化的な遺物などからあまり差はなかったのではないかと考えられるようになってきたと述べられている。今日のアフリカ人以外の人類はDNAの1.5~3%がネアンデルタール人由来のものだといい、絶滅したというよりもより大きな集団に遺伝子プールが飲み込まれたと述べている学者もいる。さらに、ホモサピエンスを最強にしたのは、血縁関係のない者同士が協力し合う遺伝子にコードされた性向と投射武器だと主張している説も載っている。それから、人類の進化は実は比較的最近になっても続いており、特に、黒い直毛、青い瞳、乳耐性、薄い肌の色といった身体の表面的な変化はすべて比較的新しいものであるという。

 「第4章 人類学への応用」は、密入国者の身元確認やインカ文明の起源調査研究といったことにDNAを利用した例が載っている。化石化した歯垢は考古学的な記録の中でもっとも豊富にDNAを含んでいる、という話もある。

 中には信ぴょう性が高そうなものや、果たしてどうだろうかと思われるものもあるが、いろいろな研究者の学説や仮説を通じて、人類がたどってきた複雑に枝分かれしてきた道と変化の一端が理解でき、知的好奇心を大いに刺激する内容だった。

 

大型本、127ページ、日本経済新聞出版社、2017/4/17

 

人類への道 知と社会性の進化 (別冊日経サイエンス)

人類への道 知と社会性の進化 (別冊日経サイエンス)