密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものと考えており、このブログを立ち上げました。日々読んできた本の備忘録を兼ねた書評と内容の概要紹介及び読書感想をまとめたブックレビューのブログです。過去に別名でAmazonのレビュー欄に掲載したものとそちらには未掲載のものがあり、後者は「Amazonレビュー欄未掲載」タグをつけてあります。

おっぱいの進化史

著:浦島 匡、著:並木 美砂子、著:福田 健二

 

 哺乳類と乳の関係について説明した本。乳製品や乳酸菌についてもページが割かれている。タイトルだけ見ると一瞬余計な期待をしてしまいそうになるかもしれないが、一般向けに極めてまじめに書かれた本である。複数の著者による共著で、特に前提知識は必要としない。

 哺乳類は乳で赤ちゃんを育てる動物だが、3億年前に単弓類というものが登場し、それが哺乳類に進化した。1億9000万年前に単孔類に近いものが分離し、1億6000万年前に今の有袋類と有胎盤類に分かれた。おっぱいの乳腺の誕生にはいくつかの説があるが、皮膚腺から発達した説が有力とされている。哺乳類はニ歯性という特徴もあり、乳歯から永久歯に生え変わる特徴がある。


 哺乳類は乳であかちゃんを育てるが、その成分は動物によってかなり違いがある。ヒトの場合、脂肪分は3.5%程度。ウシもこれに近いが、クジラは34.8%、アザラシは53.2%、ホッキョクグマは31.0%と脂肪が非常に多く含まれている。ヒトの乳はタンパク質も少なくて1.1%しかなく、ネコの12.2%はおろかウシの2.9%やサルの2.1%と比べてもかなり少ない。逆にヒトの乳は糖分が多くて7.2%もあり、ウシの4.5%と比べても多い。ヒトの母乳がこのようになった理由としては、ヒトの赤ちゃんはタンパク質を多く必要とする身体の成長はゆっくりだが、糖を必要とする脳が大きいので、それに合わせた成分比率になっているのではないかという。

 このように、動物ごとに乳の成分がちがっているため、牛乳から作られる育児用ミルクも母乳の成分とは同じではない。よって、粉ミルクの商品開発の現場では、より母乳に近いものを提供できるように研究が続けられている。

 乳に含まれるタンパク質の代表はカゼインで、これは牛乳の白さとも関係している。乳にはホエータンパク質やラクトフェリンも含まれている。乳脂肪は本来は油なので水とは混じらないが、乳の中では脂肪球膜に覆われているので水分と混ざり合える。

 人間の乳には、炭水化物の50%を占める乳糖と20%のミルクオリゴ糖(複数のオリゴ糖の総称)が含まれている。

 乳糖はガラクトースグルコースブドウ糖)が結合した二糖構造となっており、小腸でラクターゼという酵素によって分解されてその後吸収される。そのうちのブドウ糖の方はエネルギー源として利用され、ガラクトースは肝臓でグルコースに変わる。体にラクターゼが少ないとこの分解ができないので、おなかがゴロゴロ鳴る原因になる。

 一方、ミルクオリゴ糖は小腸で吸収されない。小腸を通過して大腸に届き、ビフィズス菌(赤ちゃんのおなかの中には4種類いる)を育てる。

 
 母親のおなかの中で羊水に守られている赤ちゃんは、かつては細菌に全く触れていない状態で生まれてくるとされていたが、最近の研究ではいくつかのバクテリア類がすでに生息しているということがわかってきている。


 乳製品の発酵には乳酸菌が欠かせない。乳酸菌は豊富な栄養を必要とし、同時に酸素がない環境の方を好む(酸素があっても死滅はしない)。乳酸菌は善玉菌と呼ばれ、実際に健康に良いとする様々な効果が知られてきているし、応用研究も進められている。

 ただし、体によいとされる乳酸菌であっても、免疫機能が衰えた特殊な状態では身体に問題が発生するケースも報告されているという。また、虫歯の原因になる口の中のミュータンス菌も実は乳酸菌の一種であり、歯にねばねばの多糖類を作って他の細菌の温床になっている。一方、ヨーグルトでよく使われているビフィズス菌は約20%以上の酸素濃度では生育できないという。乳製品の利用の歴史についても簡単に書かれている。

 ひとことで言って、「おっぱい、すごい」と、素直に思える内容だった。

 

単行本、216ページ、技術評論社、2017/1/25

 

おっぱいの進化史 (生物ミステリー)

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