密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

久米宏です。 ニュースステーションはザ・ベストテンだった

著:久米 宏

 

 この本は、久米宏の番組に親しんだことのある人であるなら、結構、面白く読めると思う。『土曜ワイドラジオTOKYO』『ぴったし カン・カン』『料理天国』『ザ・ベストテン』『おしゃれ』『久米宏TVスクランブル』そして『ニュースステーション』。かつて、放送史に残る番組をいくつも手掛けた久米宏が、その舞台裏と思い出話をつづった本。

 

 何千人もの受験者に混じって冷やかしでTBSを受け、俳優に扮した先輩アナウンサーをアドリブでやり込めたりしながら、6次試験まであったのに通過してしまったこと。ラジオの本番の緊張に耐えられずに病気になり、結核も患い、逆にその間にレポート係として観察と思考を重ねて自分のスタイルの基本を作ったこと。『土曜ワイドラジオTOKYO』のヒット。著者は、永六輔氏に拾われた経緯を持ち、次の2つのことを学んだという。

 

「番組を放送するに当たっては、ラジオを聴いている大勢の方々の気持ちをおもんぱからなければならない」

 

「番組を送り出す人間は、自分自身の考えや主張をしっかり持って、それを曲げてはいけない」

 

 ラジオ番組を聴いた萩本欽一から声をかけられ、『ぴったし カン・カン』に抜擢される。そこでは、ラジオと違って、TVではしゃべりすぎないようにしなければならないと気付いたそうだ。また、出演者の素の表情を引き出すことの面白さについても語っている。

 『ザ・ベストテン』も、黒柳徹子から名前があがり、「アシスタントではなく、一緒に司会をしたい」という提案があって抜擢されたそうである。きっと、外から見ていて、光るものがあったのだろし、永六輔にせよ、萩本欽一にせよ、黒柳徹子にせよ、すごく忙しい人たちのはずなのに、たとえ自分が直接仕事をしたことがない若手のアナウンサーであっても、ちゃんと見ているんだな、自分が優れているだけでなくそういうところがこういった大御所たちの活躍がロングランになった秘密なのかもしれない、と読みながら思った。

 セットと共に出てきた仔犬のハプニングで小泉今日子が笑いをこらえきれず歌えなくなったり、近藤真彦が包帯姿で熱唱したり、山口百恵を追加の質問で困らせたり。

 『ザ・ベストテン』のエピソードについてはたくさん載っている。この番組のランキングの厳正さは折り紙つきで、その年間ランキングの結果とあまりに違うので、『日本レコード大賞』の司会は黒柳の提案で2年で降りたという。

 

 『TVスクランブル』は個人的にとても印象的な番組だったので、よく覚えている。生放送で、酒を飲んで登場して暴言を吐きまくったり、無断欠席も当たり前だった横山やすし久米宏が大阪まで行って、周囲の忠告を振り切って抜擢したようだ。

 『ニュースステーション』は一番多くページが割かれている。当初は視聴率が伸びなかったが、独占契約を結んでいたCNNからもたらされた米国のスペースシャトル「チャレンジャー」の事故映像とフィリピン革命の報道を機に、上昇気流を描いてゆく。従来のニュースとは異なるスタイルは、議論や批判を招いた。反自民党とみなされ、政治家の圧力をかけたとも思える発言によってトヨタがスポンサーから降りたこともあった。いろいろなゲストへのインタビューの思い出も書かれてある。特に、ジェーン・フォンダパンタロンのエピソードと、マストロヤンニの「(仕事以外の楽しみは)決まってるじゃないか。酒、女」というのは笑った。スポーツ報道も重視しており、日本シリーズやサッカーの日韓ワールドカップの話が出てくる。

 

 意外だったのが、『ザ・ベストテン』を「大成功だったことは間違いない」としているのは当然としても、『ニュースステーション』については、「この番組は、成功だったのか失敗だったのか、この判断はとても難しい」としていること。放送期間が18年と長かったために判断材料が多すぎるというのがその理由らしい。ただ、この本人の説明は、おそらく、あまりにも思い入れが強いがゆえのものだろう。継続期間、視聴率、ニュース報道の在り方に斬新な手法を吹き込んだこと、どれをとっても客観的には成功という言葉しかない。結構分量のある本だが、いずれにせよ、面白かった。

 

単行本、344ページ、世界文化社、2017/9/13