密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

捨てられる銀行

著:橋本 卓典

 

 バブル崩壊以来、金融庁の銀行への指導方針は、自己資本比率不良債権比率で計る銀行経営の健全性だった。それは銀行資本の健全性という結果を生んだ一方で、大きな弊害もたらした。担保をとって長期貸付を行うだけでよいという形が主流となり、かつてのような個別企業にメーンバンクとして寄り添いながら支えるスタイルはなくなった。事実上利息さえ払っていれば元本の返済をせずに貸付を継続できる短期の手形貸し付けである、短期継続融資(短コロ)も大幅に減った。

 結果的に、銀行は顧客企業の担保・保証といった財務内容しか見なくなり、事業内容の徹底的な分析に努めたり、経営課題を聞き出して的確な支援を行うことをしなくなり、やがてその能力も失われていった。現場の営業は目標達成に追われ、金利競争だけが激しくなった。ビジネス的は黒字でも、キャッシュフローや資金繰りで苦しんでいる業者は多く、そのような事業者は苦しんだ、地方銀行の企業に対する事業継続支援や事業再生支援能力が失われたことは、地方経済を支える中小企業から活力や新規の設備投資意欲が消える原因のひとつになってきた可能性があると、著者は見ている。

 金融庁竹中平蔵大臣以降、方針変更には乗り出していた。しかし、肝心の金融検査マニュアルに抜本的な変更が行われていなかった。悪名高い資産査定が銀行をおびえさせる。また、1998年の「債権管理回収業に関する特別措置法」によって設立された銀行系債権回収会社サービサー)はキャリアの終わった行員の出向先と化し、2012年の「中小企業金融円滑法」の最終延長を踏まえ立ち上がった事業再生ファンドも十分に機能しているとはいいがたい。信用保証制度にいたっては、金融検査マニュアルと同等かもしくはそれ以上に金融機関の行動を大きく変えたと指弾されている。

 しかし、金融庁の長官が森信親に代わり、安倍晋三政権が唱える「地方再生」に沿った形で金融庁は方針の転換を鮮明にした。今までの銀行の健全性を重視したものから、企業と経済の成長と資産形成を最大の目標とした。また、銀行の中でも変貌を遂げた例がいくつか紹介されている。稚内信用金庫北國銀行きらやか銀行。地元の企業と二人三脚で事業を支え続ける銀行は、金利もしっかりとれる。行員にも、不毛な目先の競争に日々追いやられるのではなく、地場の企業のアドバイザーになれる能力とノウハウが身につく。地域の中核企業の経営改善、事業再生や転廃業への取り組み、担保・保証依存の融資姿勢からの転換。

 著者は共同通信社経済記者。いかにも長年金融担当をしていたという感じの固めの文章である。しかし、真摯にかかれている。著者の主観中心の記述がかなり多いので、すべてに賛成ということではないが、興味深く読むことができた。

 

新書、256ページ、講談社、2016/5/18

 

目次

第1章 金融庁の大転換 
第2章 改革に燃える3人
第3章 「選ばれる銀行」になるために
第4章 新しい4つのビジネスモデル
終章 森金融庁改革の行方

 

捨てられる銀行 (講談社現代新書)

捨てられる銀行 (講談社現代新書)