密林の図書室

日々読んでいる本の備忘録を兼ねた書評と内容の概要紹介及び読書感想をまとめたブックレビューのブログです。人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものと考え、このブログを立ち上げました。過去に別名でAmazonのレビュー欄に掲載したものとそちらには未掲載のものがあり、後者は「Amazonレビュー欄未掲載」タグをつけてあります。

人工知能が金融を支配する日

著:櫻井 豊

 

 主に資産運用業務を中心に人口知能が及ぼす影響について述べたものである。著者は旧東京銀行入行以来、金融市場におけるトレーディングや資産運用にかかわってきた経験を持つ。

 アルゴリズムトレーディングは今や株式市場では当たり前のものになっている。「ルネッサンス・テクノロジー」のようなヘッジファンドは、外部に公開されていないアルゴリズムトレーディングの手法で大きなリターンをあげているとされる。このようなファンドでは運用パフォーマンスが良いので外部から資金を入れる必要がなく、外部に運用成績の良さや投資手法をアピールする必要がない。「ブリッジウォーター」はIBMのWATSON開発チームを率いたデビット・フェルッチを引き抜いた。

 2010年5月には「フラッシュ・クラッシュ」という突然の下落がアメリカの株式市場を襲った。『フラッシュ・ボーイズ』で有名になったような手法もある。このようなヘッジファンドを中心に市場で大きなリターンを上げているとされる超高速ロボ・トレーディングの主な戦略は以下のようなものがあると紹介されている。


 「ツーシグマ」というファンドは21世紀に入って設立されたにも関わらず、急成長しており、以下のような運用プロセスをとっているという。

  • ビッグデータの取得
  • モデルによる投資判断
  • 結果のウェイト付け
  • リスク分析
  • 取引の実行


 2007年に設立された「リべリオン・リサーチ」は、機械学習を利用しながらも、スピードではなく、保有期間が数か月から数年のトレーディングをしている。為替市場も今やロボ・トレーダーばかりという。「シダテル」は債権や金利スワップにおいても超高速ロボ・トレーダーを駆使している。

 「ベターメント」や「ウェルスフロント」のようなロボ・アドバイザーを駆使した会社の台頭は、人間の投資アドバイザーにとって脅威になっている。「チャールズシュワブ」のようなネット証券もロボ・アドバイザーに進出。資産運用業界の巨人である「ブラックロック」は、2015年に「フューチャー・アドバイザー」というロボアドバイザー企業を買収。「バンガード」も2015年に独自のロボアドバイザーのサービスを立ち上げた。さらに、ビッグデータ機械学習との組み合わせによって、大量のデータから人間が思いもしなかった相関関係が導き出されたりする。そして、日本は総じてこのような海外の動きからは立ち遅れている。

 資産運用分野における人工知能利用の進展とそのトレンドの概要を知るには悪くない本だ。後半は、AIの技術的なトレンドや変遷の話も載っているが技術的にはあまり詳しいものではない。銀行の窓口や保険といった分野での人工知能の影響について著者の意見を書いているところもあるが、ここも著者の専門ではないのだろう、ごく一般的なレベルにとどまっている。

 尚、本書には、「コンピュータの世界にはムーアの法則という有名な法則があります。コンピュータの性能は18ヵ月ごとに2倍の能力を持つようになるというものです」とあるが、ムーアの法則は「コンピュータ」ではなく「集積回路」に対する法則である。しかも、「性能」に関してではなくあくまで集積回路の「集積密度」に関する法則である。著者は長年金融畑を歩んできているが、本書で扱われているテーマはテクノロジーと切っても切れない関係があるので、技術的な部分については専門家にチェックを依頼すればよかったのではないかと思われる。

 

単行本、226ページ、東洋経済新報社、2016/8/19

 

目次

0 金融とテクノロジーの表舞台と裏舞台
1 金融市場はロボ・トレーダーだらけ
2 今、ヘッジファンドは何を考えているのか?
3 資産運用では人はロボットに勝てない
4 世界を変える人工知能の進化
5 ロボットに奪われる金融の仕事
6 金融ロボット後進国、日本の危機
Conclusion 表舞台と裏舞台の両方から変わる金融界

 

人工知能が金融を支配する日

人工知能が金融を支配する日