密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

教えてみた「米国トップ校」

著:佐藤 仁

「『好きか』という問いには、それぞれに好きなところがあって何とも言えないが、肩を持ちたいと思うのは東大生の方だ。それは東大が国際的な知名度や財源などの点でプリンストンに負けているからである」(本書より)


 米国の名門中の名門であるプリンストン大学で4年間教壇に立ってきた客員教授が、米国の一流大学のすごさと課題について、東大と比較しながら書いた本。実際にプリンストン大学で教える立場になって肌で感じたことや知ったことに基づいて書かれてあるのが特徴である。

 米国の一流大学では、ノーベル賞級の有名教授に出くわすことがあるし、キャンパスは広く風格がある。多額の寄付に支えられ財源は豊か。できる生徒はどこか余裕があって「高性能のポルシェが時速40キロくらいでゆっくり走っている感じ」。多様であることを善しとする考え方に基づいたサポート体制は充実している。女子学生、女子教員ともに東大よりもはるかに女性の比率は高い。学生が教員を評価するシステムがある。少人数制で討論を重視する授業がある。教授が雑用に追われなくても良いように専門職員の体制が充実している。

 その一方で、いろいろ余裕があることの裏返しとして高コスト体質。授業料は非常に高く年間500万円ほどする。親のコネで「レガシー入学」してくる学生が14.7%もいる。入試の時点の成績さえよければ良い東大とは違って、米国一流校を目指す生徒は勉強ができるのは当然だが、さらに内申書ボランティアなど高校生活のあらゆることが大学入学の評価対象になるので高校時代から気を抜けない。コマ数は少ないが、厳しい課題の圧力に常にさらされていて勉強時間も長い。特に成績の2層目の学生は成績至上主義に走りがち。学生と教授の距離は意外に遠い。一流の教授は大金と好待遇で奪い合いになっている。

 どちらが良いかということは単純には言えないくらい、そもそも大学の考え方やありかたが違う、という感じである。また、少ない予算と雑用に振り回されながら日本の大学の先生はよくやっているという見方もできる。入学試験の点数しか問われない東大の方が個性的な学生が集まっているという著者の意見は、一理あるかもしれない。

 全体的には、東大びいき感が結構あるが、両校の比較という形をとることで米国の一流校と日本の一流校が具体的になにがどう違うのか、ということはわかりやすくなっている。また、その比較に基づき、東大はここは見習うべき、ということも書かれている。

 読み終えて、アメリカの大学と日本の大学は単純な比較が難しいくらい根本的なところが異なるということを理解しないで、アメリカの大学を見習え、などと簡単に言うべきではないし、そういう意見を見聞きしても安易に迎合すべきではないな、とは思った。

 

新書、256ページ、KADOKAWA、2017/9/8

 

教えてみた「米国トップ校」 (角川新書)

教えてみた「米国トップ校」 (角川新書)

  • 作者: 佐藤仁
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2017/09/08
  • メディア: 新書