密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

父の謝罪碑を撤去します 慰安婦問題の原点「吉田清治」長男の独白

著:大高 未貴

 

朝日新聞は父の証言に関する記事を虚偽と認定し、たくさん取り消しました。その中には八十三年に父が韓国に建立した謝罪碑に関する記事も含まれています。つまり、父が建てた謝罪碑に刻まれている文言も虚偽だということです。そういったものを放置しておくことは、日韓双方の方々にご迷惑をおかけすることになります。ですから遺族として撤去したいのです」。(吉田清治氏の長男、本書より)

 

 故吉田清治氏が韓国・天安市の「望郷の丘」に建立した謝罪碑について、その長男がそのままにしておくべきではないと考え、代理人を通じて、頑丈にコンクリートで据えられていて容易に撤去はできない状態のその碑に「慰霊碑」としたものを新たに貼り付けた。この碑は元々韓国側に寄贈されたものではないので、所有権は韓国側にはなく清治氏の遺族側にあるという。本書は、この故清治氏の長男のインタビューを中心に、本来虚実が入り混じったフィクションのような清治氏の文章や発言が証拠として利用され拡散されていった経緯を振り返りながらまとめられている。

 清治氏は長男には厳しく接することはなく、子煩悩で、勉強がよくできたことが嬉しかったようだ。ただ、家が貧しかったので普通に大学に行くのが難しく、長男も次男も当時社会主義を広める意図もあって各国から留学生を受け入れていた旧ソ連に、学費も旅費もすべてタダという条件で留学している。そのためロシア語が堪能で、日本に帰国してからも長男はそれを生かした仕事をして、病気の母と弟、そして父の生活を支えていたという。本書で紹介されている発言を通して見ると、この長男は確かに常識も思慮もある人で、父親である清治氏についても息子の立場から公平に淡々と語っている。謝罪碑についても、このままにすべきではないと判断して協力者を探して慰霊碑としたようで、今回本書のための取材に応じたのも、「“日韓双方の皆様方に、父の虚偽証言を再度、謹んでお詫び申し上げます”と、謝意を書きしるしておいてください」と伝えたかったこともあったようだ。

「(父親の清治氏は)寝込んでからはよく言っていました。正しい情報を持たないでやってしまったからと」。(吉田清治氏の長男、本書より

 

 改めていうまでもなく、吉田証言が歴史に残した傷跡は非常に深いものがある。ただ、本書を読む限り、物書きにあこがれる気持ちがあって懸賞マニアでもあり経済的にも恵まれていなかった一介の人物にすぎない清治氏が、真実よりインパクトを優先して想像をまじえて大げさに書いたり発言したものが、朝日新聞・旧社会党自民党の左派勢力・反日国際弁護士・韓国・北朝鮮の息のかかった活動家などによって、徹底的にうまく利用された感を強くする。もちろん、だからといって許されるわけではないが、吉田証言のような稚拙な内容のものがこれだけ国際的に大きな問題につながってしまった背景には、本書においても各所で明らかにされているように、真実をろくに検証せずこのようなものを都合よく大々的に取り上げた報道機関や集団や勢力があったのだということは、しっかり心に留めておくべきだろうと思った。

 

 尚、吉田清治の長男の委託で韓国に渡ってこの謝罪碑を差し替えた奥茂治氏は、その後、韓国で起訴され、有罪判決を受けた。奥茂治はあえて韓国へ行って出頭し、出国処分を受けながら反日の地で戦った。2017年1月11日に大田地裁天安(チョナン)支部で開かれた公判で、奥氏は懲役6か月執行猶予2年の有罪判決を受けたが、吉田氏の碑文が嘘だということが判決文で認められていない場合は控訴を検討するそうだ。奥氏の勇気と行動力に拍手を贈りたい。

単行本、200ページ、産経新聞出版、2017/6/2

 

父の謝罪碑を撤去します 慰安婦問題の原点「吉田清治」長男の独白

父の謝罪碑を撤去します 慰安婦問題の原点「吉田清治」長男の独白