密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

遺族外来: 大切な人を失っても

著:大西 秀樹

 

 死別は残された人に大きな心の傷を残す。このため、死別を経験した人はうつ病になりやすい。うつ病は通常人口の3~7%にみられるが、遺族では死別後7か月で23%、13か月後でも15%にうつ病がみられるという。特に高齢者では、うつ病の最大の発症要因が死別になっている。また、死別を経験した人は、自殺率が上がることも知られている。身体への影響も見られ、55歳以上の男性が配偶者を失うと、その後の半年間の死亡率が40%上昇し、その死因の3分の2が心疾患であるという。行動面でも変化が見られ、アルコールの摂取量や喫煙量が増加する傾向がある。肉親の死とともに生活環境が変わって、それによって精神に影響を受ける人もいる。

 著者は日本初の「遺族外来」の医師で、様々な原因で死別した遺族の心のケアと治療に取り組んできており、本書はその経験に基づいて書かれている。多くの患者の例が登場するが、当然すべて仮名である。最初の方では自身の死別経験についても書かれている。

 親戚や周囲の人々の何気ない言葉に傷つけられる人たち。愛する人を立て続けに2人失った例。自分が痛み止めのモルヒネの使用をOKしたから夫は早く死んだのではないかと疑い悔やむ人。自分の看病のいたらなさを責める人。自分のせいで子供は死んだのではないかと思う母親。故人が生きているかのように扱う例。夫の死を境に法的なトラブルに巻き込まれたり、だまされそうになった例も登場する。

 著者は、いろいろな例を通して、遺族の心のケアが重要なものであることを説明している。同時に、多くの人はその苦しみから立ち直る潜在的な能力があることも指摘されている。

 人は必ず死ぬ。したがって、死別は人生につきものである。ともすると、死ぬ方ばかりに注目が行きがちだが、残された方も大変であり、愛する人が亡くなってもそれによる心のダメージや生活環境の変化を乗り越えてなんとか生きていかなければならない。そういう残された人のケアのあり方を考えるだけでなく、自分がこういう立場になったらどうだろうかと自然とシュミレーションする機会にもなる本である。

 

単行本、238ページ、河出書房新社 、2017/6/19

 

遺族外来: 大切な人を失っても

遺族外来: 大切な人を失っても