密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものと考えており、このブログを立ち上げました。日々読んできた本の備忘録を兼ねた書評と内容の概要紹介及び読書感想をまとめたブックレビューのブログです。過去に別名でAmazonのレビュー欄に掲載したものとそちらには未掲載のものがあり、後者は「Amazonレビュー欄未掲載」タグをつけてあります。

図解入門 よくわかる最新SAP&Dynamics 365 (How-nual図解入門Visual Guide Book)

著:村上 均、監修:池上 裕司

 

 ERPにおいて世界で広く使われているSAPとDynamics365についての本。パッケージとしてのそれぞれの特徴についてはもちろん書かれてあるが、製品の機能自体はそれほど詳しいというほどではない。この本の良いところは、著者の経験に基づくERPの導入や利用における勘所が詰まっている点である。そういう意味では、表紙のタイトルの下にある「2大パッケージを使いこなす現場の知恵」というのが、まさにこの本の特徴を一言で言い表している。

 

 ERPシステムは時代によって進化を遂げてきた。個別業務向けの導入から複数の業務を横断するシステム間連統合が重視され、さらにはそれが進んでシステム間の全社統合、そしてグループ企業も含んだ統合や、製販会社間の統合へと発展してきた。情報系データと業務データの一元管理といった流れもある。

 その代償として、システムは複雑化し、バッチ的なシステム間の受け渡しの存在が「リアルタイム経営」を実現する上でネックになるということが起きている。過去のAdd-onプログラムがバージョンアップやシステムリプレース時に互換性の問題を生じさせることもある。人材面においても、複数のERPモジュールを横断的に理解する人材が求められるようになってきた。加えて、AI化やIoTとの連携というテーマが浮上してきた。

 一方、クラウドが浸透し、ERPクラウドでの利用が珍しくなくなってきた。クラウドの利用はITインフラ面の導入負荷や運用負荷を減らす効果が見込めるが、権限を持ったアカウントの管理を今まで以上にしっかり行うといったことが必要になる。

 

 SAPは、販売、販売・購買・在庫管理、プロジェクト管理、財務会計管理会計、固定資産管理、品質管理、プラント保全(別契約)会社の基幹システムを「ワンファクト・ワンプレース」の基本コンセプトにより、発生時点のトランザクションから財務会計管理会計トランザクションが自動的に生成されて、リアルタイムに経営情報を見れるように進化し、S/4 HANAによってインメモリーのデータベースで統合されるようになった。

 

 図1 S/4 HANAの概要とこれからの展開(本書より転記)

 

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 Dynamics 365は元々デンマークのDamgaard Data A/S社で開発されたDynamics AXをMicrosoft社が買収したERPパッケージである。導入コストがSAPより安く、Microsoftの他の製品との親和性が高い。

 

 図2 Dynamics 365の概要とこれからの展開(本書より転記)

 

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 ERPの導入においては、SIerなどがそれぞれの業界向けにビジネスモデルテンプレートとして販売しているものを適用すると、すべていちからやるよりも早く安く導入できることがある。一般的には、プログラム、要件定義書、モデル業務フロー、組織構造定義書、コード定義書、パラメーター定義書、プロトタイプ環境(機能確認環境)が含まれる。

 

 ただし、この本の真骨頂となるのは、上記に示した部分より後の、第2章以降である。経理・財務・生産・販売・購買・在庫といった個別業務向けに、例えば、消費税をどう処理すべきか、外貨評価をどう扱うべきか、配賦についての考え方、受注請求後の取り消し処理のやり方、在庫移動の問題、といった個別のポイントについて説明がある。ひとつひとつはそれほど深い内容ではないかもしれないが、実業務との兼ね合いに基づいた指針が書かれてある。誤解を恐れずに書けば、SAPもDynamics 365も常識的なことはできるのであり、むしろそれをどういうルールを定めて適切に導入・運用するかがポイントなのだというのが見えてくる。

 同じことは第3章以降にもいえる。第3章では、経営者や監査の立場から検討すべきポイントについて書かれている。第4書では情報システム部門の立場で、さらに第5章ではSIerの立場になったビジネスモデルを含めたアドバイスになっている。

 

 全体的には、ERPパッケージそのものというよりも、より実務的な視点から著者の長い経験に基づいたERPパッケージを生かす上でのポイントが広い目配りで具体的に書かれており、勉強になった。

 

目次

第1章 ERPの基礎知識

第2章 経理、財務、生産、販売、購買、在庫の悩み解決

第3章 経営者、監査の悩み解決

第4章 情シスの悩み解決
第5章 SIerの悩み解決

 

単行本、328ページ、秀和システム、2017/11/25

 

図解入門 よくわかる最新SAP&Dynamics 365 (How-nual図解入門Visual Guide Book)

図解入門 よくわかる最新SAP&Dynamics 365 (How-nual図解入門Visual Guide Book)

  • 作者: 村上均,池上裕司
  • 出版社/メーカー: 秀和システム
  • 発売日: 2017/11/25
  • メディア: 単行本