密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

大きく様変わりした救援事情。「継投論 投手交代の極意」

著:権藤博、著:二宮清純

「現代野球をきちんと見ていけば、勝つためには後ろのピッチャーが大事だというのはもう明らかなんですよ。前が良くても後ろがダメなチームが優勝したなんてことはなくて、むしろ、前が少々頼りなくても後ろがしっかりしているチームの方が成績がいいはずです」。

「まあ、簡単に言ってしまえば、どうやったら優勝できるかと言ったら、今はどんなチームも、最後の8回9回をきっちり抑えきれなかったら優勝できないんですよ。でも、なぜかみんなそこには気づかないんですね。勝ってみると、そんなことよりも先発ピッチャーのローテーションと打線で勝ったと言う。だけれど、やっぱり最後は抑えなんですよ」

「もはや先発完投の時代ではありません。投手1人の力で勝つことはできない、それなら、継投で勝てばいい。継投がうまくいってチームが勝てば、何人ものヒーローが生まれる。1人で勝つよりみんなで勝つほうがチームは盛り上がります。その結果、強いチームが出来上がります」 (以上、権藤博)。

 

 投手交代をテーマに、元横浜ベイスターズの監督で、中日・近鉄・ダイエー・横浜でコーチを務め、2017年にはWBC侍ジャパン投手コーチも務めた権藤博氏が、スポーツライターの二宮清純との対談という形で、持論を語った内容を本にしたもの。

 

 権藤氏は現役1年目に、69試合に登板して、うち44試合が先発で32完投、35勝19敗、なんと429イニング以上投げたという。「権藤、権藤、雨、権藤」と言われたくらい、連日投げまくった。しかし、そのおかげで2年目からは肩がおかしくなり、それでも2年目は30勝したが、3年目以降は肩の痛みでどうしようもなく十分な成績を上げられなくなった経験を持つ。このつらい体験は、ピッチャーを使う側に回ってからずっとあるという。

 

 昔と比べ、打撃技術とパワーの向上は著しい。バッティングマシーンの進歩で打撃技術は向上し、ボールの質が上がって昔より飛ぶようになり、ウェイトトレーニングの進歩で筋力も増した。打者はバットという道具でボールを打つから、この恩恵を最大限受けられている。 

 この打撃力の進歩に、今でも根強く残っている先発完投神話ではもう十分に対抗できない。打撃技術の進歩に対して守備側は的確な継投体制を整備し運用することこそが、現代のプロ野球球団が上位の成績を上げる必須の条件であると繰り返し説いている。

  具体的には、先発、中継ぎ、セットアッパー、抑えの4つに役割を分けて投手陣を整備し、継投する。先発が7回までいければ中継ぎは飛ばしてセットアッパー。打たれてから交代を指示するのは観客だってできることで、打たれる前に替えるところにプロの采配がある。イニングまたぎは基本的にやらない。抑えの条件は決め球があること。

  現役時代にたった2年で肩を消耗した経験を持つ権藤氏は投手の肩は消耗品であるという考えがもともとあり、リリーフ投手に対しては、ブルペンでは必要になるまで肩を作らせない。今でも「1回肩を作っておけ」という指示を出すコーチがいるそうだが、それには強く異議を唱えている。

 

 継投がテーマであるため投手の話がほとんどだが、権藤氏は、自分に打撃コーチをやらしてほしい、なぜなら投手ほど真剣にひとりひとりのバッターを見ている人間はいないから、というような話もある。

 また、横浜の監督だったときは、まだベテランではなかった谷繁捕手に対して基本的にすべてベンチからサインを出していたというのは知らなかった。ただし、捕手の方がベンチよりより近い位置にいるから捕手の判断を優先するようにはしていたとのことだが。また、指導者論的な話も当然出てくる。

  中心はあくまでも継投論ではあるものの、それを越えた話も展開されている。特に、監督やコーチの仕事は、教えることよりも、選手の能力や適性を見極めた上で、誰をどう使ったら勝てるのか、その運用管理を行うことだと説いているところは印象に残った。

 

 現代の野球は、投手にしろ、打者にしろ、エースと4番だけでなんとかなるようなものではなくなっている。組織として適材適所に適性に応じた人員を配置し、差別なく公平に競争を促し、日替わりヒーローが出て、組織として盛り上がって勝ってゆく体制を作り上げマネジメントすることが重要だという。そして、それは、野球以外の組織にもおそらく通じるところがある。

 野球好きであれば、難なく読める本だが、それにとどまらず、考えさせられるものがある。