密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

戦場の生存術

著:柘植 久慶

 

 アフリカやインドシナで従軍した経験を元に、常に危険と隣り合わせの緊張と警戒の中で作戦行動を行わなければならない歩兵および歩兵部隊が心がけておかなければならないことを書いた本。実際、予想以上にきめ細かく具体的な記述に徹して書かれており、驚いた。ここまでのものは実際に戦場にいた人でないと無理だろう。

 

 装備や服装についての注意。水筒は複数携行し、余計な音をさせないためにも給水のチャンスがあれば確実に水で満たしておく。ジャングル戦での散弾銃の有効性。太い輪ゴムや古新聞の便利さ。重傷者へのモルヒネの与え方。毒蛇などへの注意。戦場における栄養補給の重要性とタイミングと方法。平原では一団にはならず先頭にリードトラッカー役を立てて相互支援の体形を取りながら各自10メートル開けて進む。カモフラージュの重要性。致命的な事態になることがあるので、戦場では音を立てることには最大限注意を払う。植物などの状態に注意し、敵の偽装ではないか見破るポイント。白兵戦は30秒で終わらせる。足跡の読み方。食事は味方同士背を向けあうことで互いに周囲を見張りながらとる。作戦計画における地図と航空写真の重要性。部隊における予備兵力投入のタイミング。人家には安易に近づかない。狙撃兵には3人一組の狙撃犯で対抗する。銃は安易に全自動モードで使用せず半自動モードで射撃する方が良い。迂回や渡河。捕虜の扱い方。軍用犬は向かい風で進ませる。地雷原への対応。航空機、ヘリ、戦車への対応。市街戦での戦い方。

 

 戦闘中の敵の投降者や捕虜の扱い、味方の重傷者についての記述、ゲリラかもしれない民間人への警戒についての記述などは、平和な国に住んでいる人の人道主義的な視点からは、厳しすぎるように映るかもしれないくらい、実に生々しい。敵の様々なトラップのかけ方やその見極め方なども、かなり細かい。まさに、常に危険と隣り合わせの緊張の中で生きていかなければならない戦場の過酷さがリアルに伝わってきて、読みながら途中で何度か息苦しさを覚えた。

 

 尚、この本における著者略歴にはそのようなことは書かれていないが、著者は一時「元グリーンベレー待遇」という経歴を自称していてそれで炎上したことがあったようだ。ただ、逆に、この人が傭兵として実際に戦場で戦っていたこと自体は、そのときに事実だと証明されているようだ。実際、本書を読む限り、どんなに腕のいいライターでも実際の戦闘経験無しにここまで書くことは難しいだろうと思った。

 

文庫、380ページ、中央公論社 、1994/12/1

 

戦場の生存術 (中公文庫)

戦場の生存術 (中公文庫)