密林の図書室

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連合艦隊司令長官豊田副武が残した貴重な記録。『最後の帝国海軍 - 軍令部総長の証言』

著:豊田 副武

 

 連合艦隊司令長官としてどれだけ有能であったかという点での評価はいろいろあるかもしれないが、少なくとも立場的なことに限っていうなら、豊田副武は当時の帝国海軍において間違いなく決定的に重要な地位にいた人物である。戦前は海軍大臣への就任が一時内定していたし(東条英機の強い反対で流れた)、太平洋戦争においては、山本五十六(戦死)と古賀峯一(殉職)に続く3人目の連合艦隊司令長官となった。その在任中は、サイパン・グアムの玉砕、マリアナ沖海戦、レイテ沖海戦、台湾沖航空戦、神風特攻隊、硫黄島戦、沖縄戦、戦艦大和の水上特攻といった重要な戦いが続いており、圧倒的な国力を背景に反攻を強めるアメリカ相手にひたすら損害が膨れ上がって連戦連敗を続ける日本海軍の連合艦隊司令長官という苦しい立場であった。1945年4月25日には外戦部隊用の連合艦隊司令長官と内戦部隊用の鎮守府長官・警備府長官を統合して新設された海軍総司令長官になって本土決戦の準備にも関与しているし、昭和天皇が終戦に向けて開催した最高戦争指導者会議に召集されたわずか6人のメンバーのうちの一人でもあった。

 本書は、このような立場にいた豊田の声を、10回に分けて丁寧にインタビューした結果をまとめたものである。オリジナルは1950年に出版されており、67年後の2017年に復刊された。

 要職にいただけあって、その証言内容には興味深い話がいくつも含まれている。例えば、海軍は大艦巨砲主義に傾倒して航空戦力を軽視していたという指摘は今でもよく行われているが、それについは、航空は満州事変のころから急に発達したものだが海軍の予算はその頃から航空第一主義になっており、だからあれだけ発達したのだと述べて、真っ向から否定している。東條内閣において海軍大臣に一時内定したときも、「東條の陸軍大臣としてのポリシィに共鳴したり、同感したことはなく、また性格的にも手をつなぐことはできない」と覚悟したことが書かれている。東條が強硬に反対したことで豊田の入閣は見送られたが、もし東条内閣に、このようにアンチ東條で自ら頑固者と認める豊田が入ったらどうなっていただろうかと、思わずにはいられなかった。戦艦「大和」「武蔵」の建造の企画自体には豊田はかかわっていないが、海軍内でいろいろな議論があった中でアメリカの量に対して質で対抗するという意見が通ったことが書かれている。また、豊田が艦政本部長であったときに優先的に資材を回すという現場の要求を呑むかたちで「大和」「武蔵」の建造計画を大幅に前倒しすることに成功した舞台裏についても述べている。

 最高戦争指導者会議での自らの発言や、東京裁判で被告になったことといったような自らが積極的に関与したり行動したり発言したことについてはかなり詳細に書かれている。ただ、ひとつひとつの戦いについては、連合艦隊司令長官として喫した数々の敗北への痛切な思いが時々滲んではいるものの、意外に淡々とした発言になっているところが多い。真珠湾攻撃やミッドウェイ海戦については、関与する立場になかったため、比較的部外者的な見解になっているが、戦線を広げすぎたことへの批判などがみられる。サイパンの記述などを読むと、日本側はまだアメリカ軍の底力を正しく理解できていなかったことが間接的にわかる。機動艦隊への編成替えや連合艦隊司令部の場所の話は、司令官だけあって、その理由について簡潔かつ合理的に説明されている。通信にはかなり苦労したことも語っている。海軍の暗号が米軍に解読されていたことについては、あまり信じていなかったようだ。

 アメリカ軍の勝因については、物量があり、しかも物量があるから練習も十分できる、という話しをしている。当時のアメリカの人口は現在の半分の1億5000万人足らずで日本と何倍もの開きがあったわけではないし、当時の日本は今と違って大日本帝国として広い勢力圏を持っていた。ただ、資源は米英に頼っていたのでそういう相手に戦いを挑むことに対する疑問と、人口差以上の物量や科学技術での差というものを強く感じていたようだ。マリアナ沖海戦やレイテ沖海戦を含め日本の作戦がうまくいかなかった理由として、水上部隊と陸上の基地航空戦力の協同に関する考え方と連携が十分でなかったことや訓練不足と戦力不足を何度も挙げている。それから、あの大戦を通じて日本海軍の戦力でもっとも期待外れだったものとして潜水艦部隊を挙げている。

 巣鴨プリズンとなって東京裁判で無罪判決を勝ち取るまでの過程と、その裁判がいかに公平に行われたかについては、大変多くのページを使っている。豊田は無罪になったので、そういう立場の違いは考慮しなければならないが、豊田の目からすると、昨今でもいろいろいわれる東京裁判は、結構公平に進められたという見解を持っているようだ。

 とても丁寧にまとめてある。単なるガイドや歴史解説本ではない。大日本帝国海軍の要職にあった人物が自ら語った内容を記録として残したものであり、歴史的な資料として高い価値を持つ本である。

 

文庫、306ページ、中央公論新社 、2017/7/21

 

最後の帝国海軍 - 軍令部総長の証言 (中公文庫プレミアム)

最後の帝国海軍 - 軍令部総長の証言 (中公文庫プレミアム)

  • 作者: 豊田副武
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2017/07/21
  • メディア: 文庫