密林の図書室

日々読んでいる本の備忘録を兼ねた書評と内容の概要紹介のブックレビューのブログです。人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものと考え、このブログを立ち上げました。過去に別名でAmazonのレビュー欄に掲載したものとそちらには未掲載のものがあり、後者は「Amazonレビュー欄未掲載」タグをつけてあります。

AV女優消滅 セックス労働から逃げ出す女たち

著:中村 淳彦

 

 直接的なきっかけは、AV女優の発掘・管理・派遣を行うプロダクション会社が、契約をタテにあるAV女優に対して2460万円の巨額の支払いを要求する裁判をおこしたことだったようだ。AV女優の人権など考えないことが常識のAV業界からすれば、契約を守らないAV女優なんて巨額の違約金を払って当然の存在で、払わないなら裁判に訴えればいい、契約があるのだから正義はこっちにあるという理論だったようだ。しかし、裁判所はこの訴えを退けた。訴えの根拠になっている契約は労働者派遣法違反なので無効であるという判断からだ。2016年6月にはAVプロダクションのマークスジャパンに警察の家宅捜査が入った。AV女優たちが被害について告発するようになり、女性団体がイベントやシンポジウムを繰り返す。ついには国会にまで取り上げられるようになった。

  AV女優の人権問題を中心に、AV業界の体質的な課題について取り上げた本。著者はノンフィクションライター。元はAV業界の御用ライターの一人であったようだ。本書には、実は著者が何年も前に取材で聞いていたAV女優の悲痛な声も紹介されている。現在、AV女優の人権問題に焦点があたっているが、著者によると、実は路上でのスカウティングに法の網がかけられてからだいぶマシになっており、かつてはもっとひどかったようだ

 プロダクションの人間たちからすれば、「芸能界デビュー」などの言葉をちらつかせながら、世間知らずで人を信じやすい若い女性を口説いてマインドコントロールするのはたやすいことだ。地方出身で、一人暮らしで親が近くにいないとさらに好都合。ひっかかった女性は、じっくりと何か月もかけて「クロージング」と呼ばれる方向に導かれる。一見優しく扱われるが、どうしても契約書へサインしない場合は結局複数の男たちに囲まれて脅されて契約ということもある。また、AV女優として言われた通りに従い、カネになる単体もので売れている間は大事にされる。しかし、それは人間としてというよりも商品だからだ。情報は遮断され、おカネのことは聞いてもはぐらかされる。従順に従っている間はいいが、お金儲けの道具としての路線から外れようとすると牙をむく。また、いずれにせよ、売れなくなればポイされる。

 「グレーじゃなく、ブラックってことを知り尽くしているから。それは、なにも言えないよ」という著名な人気AV監督の声にあるように、逆風に対してAV業界側は沈黙している。ただ、内心は、それは一部の悪質なプロダクション側の問題だ、以前にくらべたら今はだいぶ改善している、といったような不満はいろいろあるようだ。また、業界団体による自主ルール作りの動きもある。人が演じているわけではないアニメや漫画は、過激な表現があっても表現の自由という反論がしやすい。しかし、AVの場合は、生身の人間が演じているので、まず人権をちゃんと守らないと、表現の自由を訴えても味方になってくれる人は少ない。

 別な問題もある。川奈まり子さんが、「しかしAV出演はAV女優さんにとっては職業です。それを一律に公衆道徳上の有害業務であるとすれば、AV女優のプライドを傷つけるばかりでなく、彼女たちは社会にとって有害なことを行っている反社会的な存在だと決めつけることになり、AV女優さんを差別することが正当化されてしまいます」と語っているように、自主的にAV業界を望む女性も、ちゃんといる。要するに、いけないのはAVの世界では商品として大切にされることはあっても、一人の人間として女性の人権が十分に尊重されていないし、そのためのルールが不十分で遵守体制もきちんとしていないということになる。女性の人権を中心に置いて考えるなら、表現者として自主的に職業としてAVの世界を選択する人の人権も、安全性とともにきちんと守られるべきものなのだ。

 AV業界では、様々な人たちが働いている。いろいろな方面から流れてきた男たちも多い。実はAV業界はAV女優たちのセーフティネットというより、そういう男たちのセーフティネットであるという指摘もなされている。若くて美人の女性はわざわざAV女優になんてならなくても普通に幸せな道を選べる可能性が十分あるが、いろいろなところから流れてきたAV業界にいる男たちに他の行き場はあまりない。単にAVがいけないという方向だけに落としてしまうと、彼らは地下に潜ってしまう。また、いずれにせよAVは売れなくなっていて、業界は苦しい状況に追い込まれている。

 重いテーマと内容で考えさせる。ただ、AVを見る人にも責任があるとしか読めない記述があることは気になった。商品として売られるAVからは裏の事情は見えてこない。違法性のあるものであればともかく、そうではない普通に売られている商品であるかぎり、消費者に逆切れするのはおかしい。むしろ、御用ライターであったときの著者がこういった事情を知っていながら見て見ぬふりをしていたことはどうなのか、と思った。

 

目次

第1章 人生が破壊された超人気AV女優
第2章 納得して出演している女性ばかりじゃなかった
第3章 歌手になりたくてAV作品に出演
第4章 人間扱いされないAV女優たちの絶望の系譜
第5章 普通の女の子をAV女優に導く暗黒のスカウト最前線
第6章 「AV女優に人権を」業界でただ一人動いた元AV女優
第7章 AV業界が消える前に
第8章 強要問題はAV女優の反乱だった

 

新書、235ページ、幻冬舎 、2017/9/28

 

AV女優消滅 セックス労働から逃げ出す女たち (幻冬舎新書)

AV女優消滅 セックス労働から逃げ出す女たち (幻冬舎新書)

  • 作者: 中村淳彦
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2017/09/28
  • メディア: 新書