密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

銀行員 大失職

著:岡内 幸策

 

 「しかし、伊達に金融の世界で生きてきたわけではない熱い人たちには、新たな軸の中で活躍できる場が拡大するということに気付いてほしい。従来の権威や評価が崩壊する中で、IoTをうまく活用できる人材が求められていることは事実だが、何よりも必要なのはコミュニケーション能力であり、とりわけ金融の世界では、人との繋がりがこれまで以上に重視されるだろう。なぜなら、顧客の多くは人間だからである」。

 昨今の銀行と銀行員を取り巻く環境について、市場ニーズの変化、顧客との関係の変化、AI・APIブロックチェーン・IoTといった技術の登場が銀行業務に与える影響、人材の利用、地域経済と金融機関、銀行員の将来的な余剰感、他業種からの参入、といった観点から著者の見解をまとめた本。

 銀行は低金利や日銀のマイナス金利政策の中で、集まった預金の運用に苦しんでいる。バブル崩壊後の顧客との関係の変化や接点が減ったことで、顧客目線で考えニーズに応えられる提案型営業能力が次第に失われてきた。デジタル化とキャッシュレス化の波が次第に押し寄せ、公共料金の支払いなどはコンビニにとられ、AIによって今まで人手に頼らなければならなかった様々な業務も自動化が進むことが想定される。APIを介したFinTech企業との接続。クラウドファンディングの台頭。電子マネー。海外進出や海外金融機関との提携。増える外国人への対応と活用。信金。ゆうちょ銀行。海外送金などの手数料は高いが、これもブロックチェーンの普及などで今後は下がる可能性がある。異業種からの参入。地銀の広域連合の有効性と課題。メガバンクの状況。日本の財政悪化と増え続ける日銀の国債保有潜在的なリスク。このようなことが書かれてある。

 本書は、このままだと銀行が無くなるというような危機をあおるようなものではないが、既存の業務を担当してきた銀行員は今後ますます余剰感が生じて一人一人がより強く存在意義を問われる時代が来ることを警告した内容にはなっている。多くの銀行が優れた人材を抱えながら、それを有効に活用できていない可能性も指摘されている。その一方で、冒頭で引用した本書のあとがき部分の文章のように、従来の銀行員の枠にとらわれず金融の本質に立ち返って広い視点で考えれば、新しい時代には新しいチャンスがあることも示唆されている。欲をいえば、FinTechの影響を日本以上に受けている海外の銀行の状況についても取材してあればよかった。

 

目次

第1章 変わる市場とニーズにどう応えるのか
第2章 金融機関はいつからサービス業でなくなったのか
第3章 AIでいらなくなる行員
第4章 フィンテックが変える銀行業務
第5章 「デキる」人材は埋もれている
第6章 地域金融機関の存亡
第7章 大手行の存亡

 

単行本、256ページ、日本経済新聞出版社 、2017/6/2

 

銀行員 大失職

銀行員 大失職

  • 作者: 岡内幸策
  • 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
  • 発売日: 2017/06/02
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)