密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものと考えており、このブログを立ち上げました。日々読んできた本の備忘録を兼ねた書評と内容の概要紹介及び読書感想をまとめたブックレビューのブログです。過去に別名でAmazonのレビュー欄に掲載したものとそちらには未掲載のものがあり、後者は「Amazonレビュー欄未掲載」タグをつけてあります。

触れることの科学: なぜ感じるのか どう感じるのか

著:デイヴィッド・J. リンデン、訳: 岩坂 彰

 

 タイトル通りの本。この単行本のピンクの表紙も、よく考えたものだと思う。皮膚、神経回路、そして脳。快感、痛み、熱さ、冷たさ、かゆみといった、触れるという感覚を、その感覚を感じ取る末端から伝達する経路、さらには脳に至るまで、科学的に解説した本。著者はアメリカの神経科学者。

 皮膚には、マイスナー小体(握る力を調節)、メルケル盤(質感を検出)、パチニ小体(わずかな振動でも感じ取る)、ルフィニ終末(ひっぱりの感知)を行う4つのセンサーがある。例えば、点字はメルケル盤が読み取るし、コインを握るときはマイスナー小体が活躍し、ぶつかったりする情報のフィードバックはパチニ小体から伝わる。ルフィニ終末から得られた情報を脳がどう活かしているかはよくわかっていないが、皮膚の引っ張り具合を通じて体を動かしたときの情報をフィードバックして微調整するのに役立っている可能性がある。

 触覚情報は脳に伝えられ、視床から一次体性感覚野(触覚の場合は特に3b野)、高次皮質へと送られ、判断する、記憶する、行為を始めるといった処理が行われる。楽器の訓練は、感覚を強化することでこのような脳地図の機能を強化することが可能であることを示しているし、逆に加齢が脳地図の衰えをもたらすことも示唆している。

 感覚器と脳の間は、様々な神経の軸索によってつながっている。Aα線維は筋肉・関節・腱の情報を400[km/h]の高速で伝えて自分の体の各部位が立体的にどこにあるかを把握することに役立つ。Aβ線維は先の4つの皮膚の受容器からの信号を240[km/h]の速度で運ぶ。Aδ線維は痛みや温度の情報を中速で伝える。C線維はミリエン鞘が無く、情報伝達速度も3.2[km/h]と遅いが、人と人の触れ合いの情報を伝える。愛撫のときには1秒間3~10[㎝]の速さがベスト。ちなみに、このC触覚系は社会的認知と深くかかわっている可能性があり、映画を見ても反応する。

 人間の皮膚の表面は、小さなものも含めると毛におおわれている。ただし、毛が生えていない部位もある。指先や手のひら、足の裏、唇、クリトリスもしくはペニスの先、乳首である。性的接触においては、これら毛の生えていない部位が重要な役割を果たす。そして、例えば指先の触覚器の数はどの人も同じなので、指の小さい人は指の大きい人よりも感覚器が密集している、つまり敏感である可能性が高い。

 


 辛いという感覚と熱いという感覚には共通性がある。皮膚のTRPV1というたんぱく質分子を持つ自由神経終末は熱にもカプサイシンにも反応してイオンチャネルを開く。TRPV2は極端な暑さを感知し、TRPV3と4はほんのりとした温度を感知するが、TRPV3はナツメグ・シナモンにも反応する。TRPA1は、ワサビやからしに含まれるAITCという科学物質や、ニンニクや玉ねぎに含まれるアリシンとDADSに反応する。この温かさを感じる温度TRPV1センサーはより鋭敏なものが吸血コウモリに備わっていて、近い距離にいる獲物を感じるときに役立っている。同様に、冷たさに反応するTRPM8はメントールにも反応する。

 痛みもまた、触覚器が感じる重要なもののひとつである。SCN9Aという遺伝子に欠陥があると痛みを感じなくなってしまう。また、痛みを感じても、切迫した状況では脳が状況の識別情報に基づいて伝わってくる痛みの信号を無視することがある。戦場において血だらけになって必死で戦友を助ける兵士が一時的に痛みを感じなくなるのはこのような作用による。また、身体的な痛みと心の痛みは絡み合っている。

 かゆみもまた触覚器の重要な認知機能である。様々な皮膚の刺激によって引き起こされ、アレルギー反応とも関連する。NPPBという神経物質を欠いたマウスはかゆみの感覚が無くなる。頭をかき続けて脳みそにまで到達してしまった女性の写真は衝撃的である。知覚と錯覚についても書かれている。

 知覚や聴覚に比べると、触れるという感覚はそれほど多く取り上げられることはないかもしれないが、本書を読むと、われわれが普段意識している以上に極めて重要なものだということが理解できる。とても真面目に書かれているが、アメリカ人らしいユーモアもところどころに顔を出す。恋人の横でまどろみながら彼女の胸を触っていたら何と乳首が取れてしまったという話(オチは書かないでおく)は、思わず笑ってしまった。

 

目次

第1章 皮膚は社会的器官である
第2章 コインを指先で選り分けるとき
第3章 愛撫のセンサー
第4章 セクシュアル・タッチ
第5章 ホットなチリ、クールなミント
第6章 痛みと感情
第7章 痒いところに手が届かない
第8章 錯覚と超常体験

 

単行本、286ページ、河出書房新社 、2016/9/21

 

触れることの科学: なぜ感じるのか どう感じるのか

触れることの科学: なぜ感じるのか どう感じるのか

  • 作者: デイヴィッド・J.リンデン,David J. Linden,岩坂彰
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2016/09/21
  • メディア: 単行本

[rakuten:booxstore:11822298:detail]